2020年の2大イベント

電通といえば、ブラック企業大賞ですねと呼ばれるほどに成り下がってしまった。しかし広告業界のガリバー体制は変わらない。その電通とは、昭和48年から同53年までの5年間、地方紙の東京支社勤務時代に日々電通築地本社に通う経験をしている。新人研修も兼ねていて、毎朝新聞を抱えて顔を出し、名前を覚えてもらえという部長の指示だった。真面目ではなかったのであろう。途中で他社の顔見知りに会うと、急ぐことはないだろうとモーニングコーヒーでだべるのが常になっていた。地銀のMOF担(大蔵省銀行局)のレベルではないが人脈づくりということもある。電通はともかく、北海道新聞から沖縄の琉球新報、沖縄タイムスまで、多士済々の友人ができたのは後々大いに役立った。忘れられない光景がある。電通にも組合があり、スト通告していた時だった。電通中興の祖といわれる亡き成田豊・元社長は当時新聞雑誌局長であったが2階の職場で仁王立ちになって、こんな馬鹿なことやってどうなるのだ、と大声を挙げていた。鬼軍曹とも呼ばれ、電通の出世コースとして、地方紙を担当する地方部長、新雑局長の歴任者がトップに付くという先鞭をつけたのは彼だった。私の履歴書(日経)でこんな感想を述べている。広告会社の役割も変わった。当初は決まった場を販売するメディアの代理店だった。次に広告主(クライアント)の市場戦略に深くかかわるようになり、今では広告の場を自ら作るようになった。長野五輪、サッカーW杯などだが、更に政治とも大きく関わるようなっている。ライバルの博報堂で18年間営業を担当し、いろいろあって服役も経験した本間龍が雑誌「世界」5月号と「通販生活」夏号に投稿している。今までため込んだ屈辱を晴らさんばかりの口調だが、多少割り引いても傾聴に値する。
 電通が今後大きく関わる二大イベントへの警鐘でもある。ひとつは20年の東京オリンピック。JOCの専任代理店で、すべての業務を独占的に扱う。30年余り国際オリンピック委員会と太いパイプを築いてきて、今回の招致でも電通が裏作業を担ったからできたといっていい。安倍政権の肝入りとあって、スポンサーの集まりは既に予定額を超え、朝日、毎日、読売、日経の4紙も揃ってスポンサーとなり、誰も異を唱えられない大翼賛会となっている。広報に限らず運営のすべてが電通の意向に従って動く構図である。
 そしてもうひとつが憲法改正国民投票。イベントというのもおかしいのだが、電通が深く介在している。07年に法制化され、国会の3分の2以上の賛成で発議でき、60日~80日以内に国民投票に付される。選挙と違い、投票運動の広告宣伝に制約がない。改憲派の広告宣伝費はひょっとして5000億円に達するかもしれないと指摘する。既にシュミレーションがなされ、いつでもTV,新聞の枠がダミーで抑える体制ができている。護憲派との格差を放置しては、不平等極まりないので規制をするべきだと問題提起している。これは政治権力と結びついて膨大な利権を獲得していく手法で、広告ビジネスが大きく変質している実態でもある。
 45年前の電通も今から思うと、牧歌的なところもあった。社員の誰しもタクシーチケットを所有し、麻雀で最終電車を過ぎると我々にもおこぼれに預かれた。体育会系のチキンレースみたいなところもあり、身銭で競馬、銀座豪遊に興じてサラ金で身動きできない社員も多かった。成田豊自身もストイックな側面があり、その自宅は貧相なもので、個人的にカネをものすることもなく潔かった。電通鬼十則の同質性が今回の事態を招いたといっていい。
 結局は企業も人である。どんなリーダーを選ぶかにかかっている。糸井重里・株式会社ほぼ日代表取締役社長に倣って、クリエイティブから選ぶのも手だ。国家権力とは一線を画し、自由で伸びやかなマーケティング感覚でしっかり稼いでほしい。

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