拉致解決は日朝国交回復から

 10月29日北陸中日新聞の朝刊1面。「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」と叫ぶ高市首相、同じ面に「苦しみ受け止めてくれた」トランプと3分間面談した拉致被害者家族の声。これほど違和感を覚える紙面はない。咲き誇る外交で一歩も前に進めなかった無策、無責任を棚に上げ、トランプに頼めと被害者家族をけしかけている。恥ずかしい限りである。

 もし米朝会談が実現していたら、「おい正恩よ、拉致した日本人を返してやれよ」「ドナルドよ、核保有を認めてくれるか」「それはないが、カネなら日本に払わせるよ。口利き料はもらうがね」。朝刊1面から、こんなシーンも思い浮かぶ。

 腹立たしい思いだが、拉致問題のおさらいをしておきたい。亡き安倍晋三は拉致問題を最大限政治利用した。強者の米国には這いつくばるが、弱いと見た北には居丈高にふるまう。3原則とは「拉致問題は我が国の最重要課題」「拉致問題の解決なくして国交正常化交渉はない」「被害者は全員生存しており、即時一括帰国を求める」。そして「北は早晩崩壊する」とした。

 まるで子どもの喧嘩だが、拉致被害者たちをも巻き込んだ。身動きが取れない状況にしてしまったので、交渉に関わる人材もいなくなり、日朝トップ会談は絵空事となった。3原則をお題目のように唱え、トップ交渉の覚悟を語るだけで、時間稼ぎをして20年過ぎたことになる。

 安倍後継を金看板にする高市政権はここから一歩も出ないだろう。しかし、外交の停滞をこれ以上許してはならない。89歳となった横田早紀江さんも、こうした欺瞞に気が付いていると思う。拉致被害者もそろそろ本当の声を挙げなければならない。

 さて、解決策を考えるには、発想を全面的に変えなければならない。岡本厚・元世界編集長の論を紹介したい。

 安倍3原則の「圧力」一辺倒路線は破綻した。もちろん背景にある北朝鮮崩壊論も。いうまでもなく拉致は北朝鮮の国家犯罪、重大な人権侵害である。許しがたいが、糾弾だけでは前には進まない。割り切って前に進むしかない。日本にとって、150年の「不正常」な関係をこのままにしておくのか。植民地支配の被害の清算をしなくていいのか。わが国から働きかけて、いまこそ国交の正常化を目指すべきではないか。元来、国交正常化は北朝鮮のために行うのではない。日本自身のためであり、また双方の国の利益のために行うのであり、それは東アジア地域の平和につながる。

 また、北の核兵器所有も大きな問題だが、日本は核を保有する国連安保常任理事国ほか核保有国のすべてと国交樹立している。核保有は国交正常化の妨げにはならない。いまできることは、この北東アジア地域で戦争を起こさせないこと、核兵器を使用させないことである。日本の平和運動は、北朝鮮と交流対話をし、休戦のままになっている朝鮮戦争の終戦に努力し、日本自体の軍事化、核武装化を阻止することである。

 さあ、勇気を出して踏み出そう。蛇足ながら、シンポの案内をします。

 戦後80年シンポ「北東アジアの平和を考える」。11月9日13時30分~16時、富山市湊入船町6-7の県民共生センターサンフォルテ2階ホール。参加費1,000円。

 

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