日米同盟の行く末

 自衛隊の現場が混乱し、しかめっ面が眼に見える。つい悲憤慷慨の独善老人になってしまうが許されたい。昨年末に防衛省は、取引のあるメーカーや商社を呼び、支払い延期の説明会を開いた。米国製の武器を言われるままに買うので、やりくりが付かないのだ。ご存知の通りF35A戦闘機、輸送機オスプレイ、早期警戒機E2D,無人警戒機グローバルホークなどを爆買いしている。自衛隊の内情に詳しいグランド・ニューシャム元・米海兵隊大佐にはこう映っている。「日本の防衛予算は自衛官よりも兵器に偏っている。隊員不足なのに次々と高い兵器を買っても使いこなせないだろう」。FMSとは、米国が同盟国に兵器を売るシステムだが、開発コストが上積みされ価格がバカ高い。加えて、最新技術の流出を避けるために維持整備は米国のメーカーが行うとなっており、技術者がその都度来日するので、給与や滞在費、渡航費がなど一人当たり数千万円になる。これを払い続けなければならない。現場が望んでもいない買い物だけに「誰が入れたんだ、こんなもの」と不満が渦巻いている。誰が、と問われれば、2014年に官邸内に置かれた国家安全保障会議(NSC)で、防衛・外務・警察から約70人のスタッフが出向し、防衛省の上に君臨している。その例として、昨年末自動車関税を25%上げる案が米側から急浮上すると、安倍政権はすかさずイージス・アショアの購入に動いた。自動車を守るバーターとして、米国から高い武器を買えという流れ、政権維持だけが目的で官邸が動く。国民の血税であるという意識は微塵もない。

 このレポート「戦略なき軍拡」は、月刊「世界」3月号の「拡大する違憲状況 特集」の一部として掲載されている。取材したのは東京新聞社会部で、あの望月衣塑子記者も属しているが確かに鋭い。もうひとつ気になったのは、ワシントンでひとりシンクタンクとして、野党や沖縄の政治家に頼りにされている猿田佐世・新外交イニシアティブ代表の「第4次アーミテージ・ナイ報告分析」だ。

 日本の防衛・外交政策の青写真といわれるこの報告は、07年に出されてから今に続く。安倍政権の動きはすべてこのシナリオ通りで、官邸は教科書のように崇めている。秘密保護法、武器輸出三原則の廃棄、集団的自衛権の行使、安保法制の成立などは、この「アーミテージ・ナイ報告」そのままである。第3次報告では「日本は一級国に留まりたいか。二級国家でよいならこの報告書は必要ない」とまで記載され、訪米した晋三は「日本は二級国家にはなりません」と子供じみた反応をしている。

 アーミテージとナイの二人が属するのは戦略国際問題研究所で、ほとんど日本からの資金で成り立っている。ジャパンハンドラーともいえるし、日本の政権が自らの狙いをアメリカの声として彼らに語らせているといってもいい。小さな民間のシンクタンクが日米外交を仕切っているのはいびつである。第4次報告は、彼らがトランプ政権から遠ざかっていることもあり、日米同盟が壊されてはならないと米国向けをも意識している。米国がより使いやすい自衛隊に突き進むべきだと、彼らの米国の利益第一をむき出しだ。トランプをノーベル平和賞に推薦するとのことだが、ここまで卑屈にならなければならないのだろうか。

 ふと、いつかは米国支配から抜け出すことも考えているのではないか、と思う。今は、国内の反対を押し切るために米国を利用し、アジアで存在がアピールできる軍隊を持つ。イスラエルがそうであるように。米国の支配から脱すれば、次に天皇を元首として押し出して、国内支配を盤石にする。そんなシナリオを夢想しているとしか思えない。

 それはアジアの孤児を覚悟しなければならない。そんな国軍を維持するために、貧困分断を受け入れる無批判な大衆が必要となる。悪夢のような政権が現実となるのか。胸突き八丁のところに、我々はいる。

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