黒部宇奈月温泉駅

 1月3日午後、東京から帰省の次男一家を送るため黒部宇奈月温泉駅に向かった。北陸新幹線開業後初めてのことで、どんな駅仕様になっているか興味もあったので、ゆとりを持って到着した。結論からいえば、借りてきた図面通りの、玩具のプラレール駅である。どんな需要予測で誰が決めて、どこが資金を出しているのか。恐らくメイン駅以外の新幹線駅は同じもので、批判には他駅も同様とかわすだけだろう。しかし税金だとすれば首長、および議会の責任は重い。そして当然市民にも責任は及ぶ。高岡市を挙げるまでもなく、自治体の財政は想像以上に厳しい。こんなプロジェクトはボデイブローのように効いてくる。

 同駅は大阪開業時で1日2700人と予測している。報道では大阪開業を30年後くらいと見ているので、先取りしての甘さだ。ざっと見渡した感想だが、往復30便発着として多くて500人前後ではないか。誘導ロータリーに車が見かけない。タクシー3台が待機しているが動く気配がない。駐車場は有料が84台、無料が600台。空き地が多かったのだろうが融雪装置などメンテ費用も負担だ。アクセスとして富山地方鉄道新黒部駅を無理矢理新設したが、積極的な利用者があるとは思えない。レンタカー2社が近接してあるが、YKK関連の出張者などが利用するのだろうが1社で十分だ。黒部本社の中堅企業トヨックスが専用の駐車場を持っており、気が利いている。駅売店としてセブンイレブンがある。おばさんが携帯できょう弁当が売れ残っていると連絡しているのを聞くと、苦戦が続いているようだ。隣接して2階建てのビルが地域観光ギャラリーとなっている。帰省客でちょっと込んでいるようだが、平日は心配である。新幹線無人駅ということも頭をよぎる。

 久しぶりに富山出身の関満博・一橋大名誉教授の新著「日本の中小企業」(中公新書)を手にした。関は80年代に中国・深圳に注目、日本の多くの中小企業を誘った。今やシリコンバレーがソフトウエア―の聖地なら、深圳はハードウェアの聖地だと並び称され、起業を目指す若者が世界から押し掛けている。その深圳においても日本人起業家は少なく、ここで事業を始めてもすぐにコピーされて終わりと正面から向き合っていない。

 さて、関の指摘である。過小過多と呼ばれ、小さ過ぎる企業が多過ぎるという現象は死語になっているという。製造事業所だけに限ると86年に87万社あったが、16年には半減し45万社に激減している。廃業率が高く、新規参入は極めて少ない。この現象は円高の節目ごとに顕著となり、92年には未来を語る経営者に出会うことがなくなったと嘆く。いままでは一元一次方程式で済んだが、IT、環境、アジアなどの経営に多くの変数が持ち込まれ多元連立方程式経営に変わった。つまり問題解決型対応から、問題発見能力が問われるようになった。基礎となるのは時代認識であり、現場認識が決め手となる。中国に進出した場合でも、成功している企業の経営者は現地に常駐している。そうしないと急激に変化する市場についていけないのだ。日本でも高齢化の進展は想像以上で、市場に及ぼす影響は大きく、そして早い。96年に花巻市で立ち上げた起業家支援センターは成功したかに見えていたが、現在は閑古鳥が鳴くようになっている。こんな時代の事業承継の本命はやはり息子、娘、娘婿であろう。代表取締役となって個人保証するリスクを取り、その覚悟で時代認識や事業感覚を磨いていくしかない。家業にこだわってタコツボ状態となり、縮小均衡を続けていけばやがて企業は消滅するしかない。しかし社会の変化は事業領域を広げるチャンスでもある。

 新年早々というのに申し訳ない話になってしまった。自分だけは安全地帯にいて、警鐘を鳴らすだけではないか。そんな批判も承知しながら、しばらくお付き合いください。

 

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