夏休み京都の旅

 東京に住む小6の孫娘は、京土産の定番である八つ橋の虜(とりこ)になっている。夏休みの希望が「おたべ」の工場見学だという。爺さんとしては、昨夏の帯広に続く第2弾とせざるを得ないが、ここだけは外せないと知恩院参詣を条件にした。京都と聞いて、明治生まれで、文盲でもあった祖母が思い出された。小さな仏壇に朝夕線香をあげ、寺詣りを欠かさなかった。新湊の古刹である曼陀羅寺には、祖母に連れられてよく通った。その浄土宗総本山が知恩院である。祖母だけが分骨されており、三代揃ってお詣りできるのもこんな機会があってこそ、と妙に納得した。東京から次男夫婦一家3人、福井からは長男の孫の大学生、富山から爺さんと三男の総勢6人による2泊3日の旅。8月19日京都駅で落ち合って、すぐに知恩院に向かった。6人が乗れる大型タクシーは普通車料金と変わらない。観光ガイドも兼ねた運転ぶりに、翌日の予約をした。1時間7000円だが、この暑さを考えたら、合理的な選択であった。

 京都には八つ橋を名乗る業者が14社ある。創業本家を争った裁判も記憶に残るが、我々が訪れたのは57年創業の「おたべ」という小ぎれいな町工場。熟練のおじさんが自動化ラインを見守っていて、三角の餡入り生八つ橋が次々と箱に収まっていく。孫娘は興味深そうに見入っている。壁際の解説パネルを見て驚いた。福井・若狭の銘水「瓜割の水」に加え、福井産のコシヒカリを使っている。ここからが爺さんのひんしゅく、知ったかぶり。

 奈良の東大寺に「お水取り」という有名な行事がある。3月の深夜に行われ、松明の火がお堂を駆け巡り、その火の粉を被ると縁起がいいとされる。これは福井の小浜にあるお寺で行われる「お水送り」に相通じるもので、10日間かけて福井の水が京都、奈良に送られていた。「おたべ」もそうした由来をお菓子作りに込めたのだろう。フーンと聞いていたのは孫娘だけ。「お水取り亡妻も火の粉を被ったに」。これはわが駄句だが金子兜太が褒めてくれた忘れられない句である。大きくなったら読んでね、と孫娘に走り書きして渡した。

 さて、今回の旅のもうひとつの目的が京都国際マンガミュージアム。06年に京都精華大学が京都市と共同で、日本初・日本最大規模のマンガ博物館と銘打って開館した。大人の入館料が1200円とあり、高いとぶつぶついいながら購入した。小学生は200円。京都精華大学にはマンガ学科があり、専門学校の代々木アニメーションと並ぶ漫画家養成の登竜門となっている。授業料はいずれも年間160万前後だ。コスパを考えるとやはり二の足を踏む。漫画家養成は手塚治虫のトキワ荘方式で、大学や専門学校が手がけるより集英社などの出版社がやった方がいいと思った。2時間余り過ごし、爺さんはちばつやを満喫した。

 ホテルの夕食は高いからと入ったのがマンガミュージアム近くの「グリルステーキ葵」。そこのおばさんが厄払いの縁起物といって、布袋に入った大文字焼きの消し炭を6個くれた。貴重品である。京都らしい気遣いがありがたかった。

 金閣寺、竜安寺、清水寺と回ったが、ほぼ9割がインバウンド客。すさまじい。

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