女性候補を市民が擁立して富山県知事選に挑んでいる。確認団体は「いのち支え合う県民の会」で、社民、共産の応援を受ける。相手は自民推薦の現職と、自民推薦に漏れた新人のふたり。保守分裂の選挙を指をくわえて見ているわけにはいかない。しかし候補者選びは困難を極める。何とか漕ぎつけたというのが真相。もちろんこちらは徒手空拳で、選挙資金は市民のカンパである。そのカンパ担当を引き受けた。難儀なことを他人に振るわけにはいかない。頭の中には、べ平連への憧れが残っている。市民の自発的なヤル気が組織されていき、「カネがないなら知恵を、知恵がないなら汗を」を合言葉に、何となく目的へ向かってなだれ込んでいく。小さくても歴史の創造性に関わりたい。75歳を過ぎ、最後のご奉公という意味合いでもある。
何とかなるだろうという楽観の演出もやる。必死の形相でカネがない、カネがないと叫び出せば、選挙にならない。ゆとりはないが、「大変ですね」と声を掛けてもらう程度の関係がいい。そんな無手勝流が思わぬラッキーを引き寄せることもあるのだ。
選挙告示の10月8日。新潟県南魚沼市在住の黒岩秩子・元参議院議員が応援に駆け付けてくれた。女性ネットワークは敏感で、敏捷に反応する。弁士はもちろんのこと、事務所で揮ごうした檄は「迷惑をかけ合える関係になりましょう」と選挙事務所で異彩を放つ。みんな感じ入っていたが、数日を経て、迷惑どころか、思いがけないプレゼントが届けられた。誰も知らない一般財団法人WINWINから、推薦状と選挙活動資金30万円を寄付する旨の書状だ。何気なく封を切ったが呑み込めなくて、検索をしてようやく納得した。WINWINは議員になりたい女性を後押しする財団で、1999年に赤松良子・元文部大臣などが設立している。党派を問わず女性議員の誕生に力を貸す。黒岩・元議員がこの財団の評議員をやっていて、すぐに働きかけたのである。
感心するのは、電話一本の働きかけで動く事務局の対応だ。官僚主義とは無縁で、選挙の渦中も配慮して、誓約書とかの提出など一切ない。「さぁ、頑張って」が伝わってくる。興味が湧いてきて探ってみると、山口積恵・専務理事が切り回している。セブンイレブンの創業メンバーで取締役だったが、その退任を聞きつけて、赤松良子代表が「女性政治家をひとりでも多く、女性議員が増えれば社会が変わる」と口説き落として、スカウトした。理想と実務、ロマンとカネ。この対立するものを絶妙にコントロールしていくのが、セブンイレブンで会得した本質をつかむ能力。彼女も同じく団塊世代だが、寺島実郎が唱える「シルバー・デモクラシー 戦後世代の覚悟と責任」(岩波新書)が実践されているといっていい。
加えて、ジェンダーフリーの視点も、このWINWINに触発されて明確にしておこう。アベを継承した菅政権は、新自由主義的な男性性を隠さない。学術会議会員任命問題も、闘争心が湧いてきたという。ことの是非ではない。問答無用と戦い、蹴散らしていくのだという宣言でもある。自民党の女性議員の少なさは、保守的な地域権力基盤の上に成り立つ、政党の在り方に直結している。女性活躍社会という掛け声は、政権批判をかわすためだけであり、その本質を見抜かなければならない。月刊「世界」11月号の三浦まり・上智大学教授の論考を参考にしたので、できれば手に取って読んでいただきたい。
富山県知事選は11月25日が投票日。保守的な地域権力基盤とはどんなものか、明らかになる。