富士フイルム富山化学工業

 いわゆる裏金議員として窮地に立つ田畑裕明後援会が発行する「ひびき新聞」(10月3日号)が目に入った。「ワクチン製造拠点を富山に誘致 富山バイオエコノミー戦略」の大見出し。平時は企業ニーズに対応するが、パンデミックの有事には政府の要請に応じるとして、国内8カ所の工場が指定され、国家予算3274億円が各企業に補助される。富士フイルム富山化学工業は既に600億円を投じて、27年稼働を目指している。バイオ医薬品は半導体と並ぶ経済成長の牽引役で、富士フイルムはサムスンと並んで、最先端を走っている。これを読むと、厚生労働委員長である田畑議員が唯一の出番のように口利き利権に走ったように感じられる。僕にとって不記載の68万円など問題ではなく、グローバルなビッグビジネスこそ私の活動分野なのです。3000億円の予算を動かし、富山に600億円の設備投資をもたらしたのは私です。といっているようだが、口利き利権としては、工場建設に関わる程度ではなかったのだろうか。素朴な疑問は600億円の投資に400億円の補助金は果たして必要なのだろうか。

 新田知事は地元医薬品業界への波及を期待すると発言しているがこれも難しい。バイオ薬品は錠剤ではなく液体で、温度管理や配送保管も大変で、医薬品卸のファイネスは冷凍倉庫と冷凍配送の設備投資を行って体制を整えている。従来医薬品は10億レベルの投資で済むが、バイオは100億を超える額が必要で、とても地元企業はついていけない。

 それよりも富山化学工業の歴史の富山らしさに注目してみたい。1920年開学した富山薬学専門学校卒業生の活躍の場として1930年にスタートしている。戦後間もない時期にヒロポンを製造しており、割り当ての10倍以上生産し、薬事法違反で2か月間の業務停止を受けた。「従業員の給料も滞りがちだったので、背に腹は替えられないと思ってやった」が経営者の弁。64年にはパイプの破損により塩素ガスが噴出、7町内で7,141人が被害、うち500人がガス中毒になり、重体6人、重症27人の被害を出した。噂では化学物質の不当廃棄もしばしばで、経営体質に大きな問題があった。当然経営が行き詰まり、02年大正製薬に、そして最終的には富士フイルムの完全子会社となった。化学薬品からバイオへの転換で、多くの技術系社員がリストラされた。20年に降ってわいたような安倍晋三のアビガン備蓄200万人発言も、富山化学の名を高めたようでいて、食い物にされた感が強い。本来であれば、アビガン廃棄の費用を安倍晋三に請求しなければならないのだが、誰もいい出さない。富山化学には高校同期ふたりが働いていた。今どうしているだろうか。ローカルで、進取の精神に乏しく、マネジメント能力のない経営者しか持ちえない企業悲劇の典型といっていい。

 ローカルな政治家も然り。田畑議員の政治資金報告書を見ると、政治家本人も、多く抱える私設秘書もほとんど政治資金を集めるためだけという感じがする。富士フイルムの新工場に口利きするので、パーティ券を頼みます。「入金のみ」でも構いません。そんな風景がすぐに浮かんでくる。とにかく政治資金は選挙対策につぎ込み、当選を重ねれば厚生労働大臣も夢ではない。大臣であれば数倍の利権にありつける。そんな政治家しか持ちえない我々も悲劇である。

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