富山市科学博物館

 この夏、「学研の科学」が復刊する。最盛期には「学研の学習」と合わせて670万部という驚異的な部数を誇っていたが、少子化もあり2010年に休刊となっていた。我らが記憶には、誠文堂新光社の「子供の科学」とあわせて、本誌よりも付録が魅力で、その付録づくりに夢中になった。日光カメラや顕微鏡だが競い合って、その仕組みを覚え、なるほどと思い、そんな記憶が本物需要につながった。例えば、中3の修学旅行だがほぼカメラ持参となり、フイルム何本も使い込んだ。復刊初号の付録は何にするのか、興味深いところである。

 7月29日友人に誘われて、富山市科学博物館を訪ねた。ほぼ30年ぶりだろうか、小学生の3男とプラネタリウムを見て以来である。今回は英国カラクリ人形が企画展示されている。

 からくり人形といえば、日本の茶運び人形だが、世界の主流は18世紀から19世紀にかけて、オルゴールの技術を応用して、とりわけ英国で活発に制作されていった。それらは「オートマタ」と呼ばれ、展示品はピタゴラスイッチを想起され、面白い仕掛けがいっぱいで、大人も十分に楽しめる。その中で、とりわけ老人の興味を引いたのが、坂啓典の紹介コーナーである。65年富山生まれ、神戸大文学部を出て、桑沢デザイン研究所の夜間で学び、デンマークで3年過ごしている経歴に驚いた。現在東京・代々木でペーパーエンジニアと称して、デザイン事務所「図工室」を開業している。紙工作なんかでやっていけるのかなあと思いつつ、何とか今にいたっているとうそぶくが、この「図工室」から付録のアイデアが繰り出されるのではないかと想像した。最近、突飛な想像に自分ながら驚く。でも楽しみでもある。

 学研の科学の新編集長・吉野敏弘はこんな抱負を語っている。「みなさん声をそろえて付録が楽しかったと評価してくださいます。日光カメラや顕微鏡、生き物を飼育する付録などがあって、実験に失敗した記憶も鮮やかに生き生きと思い出を語られます。ただ、いつの時代だって子どもたちに楽しんでほしいという編集者の思いは変わらなかったものの、年を経るごとに、科学の付録が玩具やキャラクター商品としての意味付けがされるようになっていき、付録は科学の原理を伝える教材であるという本質が見えにくくなっていったことが、本来の価値を減じてしまった最大の理由だと考えています」。老人は違う。科学の原理といっても、付録は何よりも面白く、子供の興味を引かなくてはならない。何よりも安く、短期間に大量に作らなければならない。本誌よりも付録が売り上げを決める。最近の婦人誌も、付録で驚かせ、安さ、お得意感を演出している。

 そこで老人のもし、である。「学研の科学」編集長と「図工室」坂啓典を出合わせたい。既に出会っているかもしれない。その結論だが、付録は坂さんに任せますとなるのではないか。富山市科学博物館の中で、ふとこんなことを思い浮かべた。

 学研も、進研ゼミからスタートしたベネッセもそうだが、子供向け教育事業からスタートして、曲がり角に来るや、時同じくして高齢者福祉事業を展開するようになった。創業者の意気込みがまだ残っており、すさまじいエネルギーだが、すべての企業がそんなはざまにいる。付録が本誌の売れ行きを決めていく。付録の人材をどう活用するか。時代の急転換期には必要なやり方である。

 

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