ビッグイシュー日本版

大阪淀屋橋の地下鉄1番出口に立つのは、“ヒゲじいさん”こと松本義則。真っ白なひげがトレードマークの65歳。ホームレスになって7年だが、昨年の9月以来顔に精気が満ちている。手にしているのは国際ストリート雑誌「ビッグイシュー日本版」。本屋には売ってない。販売はホームレスの人に限られて、定価は200円。そのうち110円が松本の収入となり、生活を支える。首から提げているのはIDカード。ホームレスの証明書?であり、ここは販売エリア、金品を無心したり、迷惑はかけないと宣言署名した証しでもある。「おはようございます」、「お疲れさま」と声を掛け、道に迷っている人がいれば案内役を務め、釣銭のない時は、お代はいつでもいいでっせ、と心意気を示す。ほとんど休憩も取らず、この暑さにも日陰に入らなかった。かなりの固定客もついた。この頃では、親しくなった人に声を掛けられ、お茶や酒を飲むこともある。
 そもそもこの支援誌、1991年にイギリスで創刊され、あっという間に世界各国に広まった。コンセプトは「ホームレスの救済ではなく、彼らの仕事を作ること」。「売ること(労働)」によって社会との交流、生活の再生を目指す。理屈はそうだが、彼らが生きていくためには、街角で市民がこの雑誌を買ってくれないことには話にならない。本の造作はつましいが、20代から30代に照準を絞り、雑誌のクオリティも高くしている。手にしている12号では、ペットショップボーイズ(私は知らないが)にインタビューし、スローシンプルフードを独自に取材して特集している。とにかく売れる雑誌を作り続けていかなければならない。市場競争に競り勝って、社会貢献をする<社会的企業>のプライドがかかっている。
 日本版の発行を思いつき、ここまで引っ張ってきたのが水越洋子。50歳。NPOでボランティア活動をやってきたが、いつも資金の問題で限界を感じていた。2002年1月にアメリカでこのことを知り、これはビジネスであり、自分でこれをやってみようと思った。有限会社を設立、<社会的企業>であると位置づけ、きちんと利益を上げ、それを非営利法人に寄付し、ホームレスの救済活動をする。創刊にこぎつけたのが2003年9月11日。刷り出し部数は5万部。その時の売り子は67名。NPO法人釜ケ崎支援機構の協力で何とか集めた。創刊号、3号が完売している。平均するとほほ8万円強手にしたことになる。もちろん個人差もある。東京、横浜、神戸にひろげ、この9月から月2回発行としている。部数も相応に伸ばしているに違いない。
 更にこの国際的組織は、7月25日から8月1日までスウェ-デンで第2回ホームレス・サッカーワールドカップを開催している。日本チームも始めて参加した。結果は1勝10敗だったが、フェアプレー賞を受賞。唯一の勝利はPK戦にもつれ込み、何とあの松本が決めた。ホームレスを忘れて泣いた。「実はスウェ-デンにいる時から淀屋橋の売り場に早く戻りたくてね。僕にとっては、一番ほっとする場所なんです」が帰国の弁。
 この社会的企業の本質を生かせば。何も本の販売に限らなくてもいい。米だって、野菜だって、ちょっとした家の修理だって、そしてホームレスに限らなくてもいい。大事なことは、小さな地域、近隣で誰でも実践していくこと。誰でも自立して、社会と関わっていると実感できれば、犯罪も格段に減ることは間違いない。地域づくりの原点だ。それを担っていくのが、わたしであり、あなた。肝に銘じておこう。
 久しぶりにストライキなる言葉を聞いた。賛成である。18日付け読売の朝刊はひどい。渡邉恒夫だけに顔を向けている。この呪縛から解放される日はいつになるのだろうか。
 いまひとつ。「リサイクル セックス」なる本が書店に並んでいる。「セックスボランティア」でもう沢山。柳の下にドジョウは二匹はいない。

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