氷河期世代のいま、将来

 35歳の若者は転職先を求めて、想定外の厳しさに焦りを募らせている。富山県内の大学を出て、地元製造業に職を得た。アメリカ担当として、1年に6回程度シカゴの出先に出向き、レンタカーで納入先を中心に訪問していた。結婚もし、子供2人にも恵まれ、新居もできたばかり。そんな中で、突然辞めるといい出した。ちょっと尖ったところもあり、おさまるのに時間がかかると思っていたが、辞表を出してきたという。人出不足というから、何とかなるだろうと思っていたが、この3か月で3社から不採用という結果。何か違うと感じている。採用する企業も二の足を踏む事情がある。政権は「人生再設計第一世代」と相変わらずの甘いコピー感覚でお茶を濁そうとしているが、深刻な現実が立ちはだかっている。

 「若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か」を著し、「希望は戦争」といい切るロスジェネの代弁者・赤木智弘(43歳)の最近の論考に耳を傾けたい。「ロスジェネに、つながりはいらない」。唯一の救済策は「今すぐ、お金の分配を」となる。

 氷河期世代は人口では約2千万人、非正規の3割近くを占める。もう10年が過ぎ、33歳から48歳ともう若くはない。企業の本音は正社員としての経験を積んだ40代の熟練者であって、即戦力を期待する。フリーター上がりの40代新人ではないのだ。生涯賃金やリスクを考えると、雇用助成金などが決め手になるわけがない。

 一方、氷河期世代も企業を信用していない。バブルがはじけて、更にリーマンショックが重なり、地獄の底を見た企業は、おいそれと手綱を緩めるわけがない。この間、内部留保の積み上げての生き残り最優先で、賃金アップや社員厚生など全く考えてこなかった。今更、社会から再挑戦といわれても、無年金で将来のお荷物は困るという発想としか思えない。いわば、社会の側から「つながり」を切られた世代ということ。「つながり」というのは、自分が求め、かつ他者に求められるからこそ、成り立つのであって、もはや企業も求めていないし、結婚して家庭を作ろうという相手からも、求められてはいない。

 では、どのようにして救うか。これは実に簡単なこと。氷河期世代にお金を渡せばいい。お金というのは非常に便利なもので、たとえ彼女に手料理を作ってもらえなくても、お金を使えばお店で誰かが作った料理を食べられるのである。お金というのは、つながりを持たない個人が他人と平等に権利を行使できる数少ない手段である。国や行政が生存権の下に行う支援というのは、結局はお金を分配することでしか成り立たない。

 そして、今の日本に本当に必要なのは、経営者でも労働者でもなく「消費者」。なぜなら今後、世界の労働の幾ばくかはAIに置き換えられていくからだ。だが、AIは単純には労働者と置き換えられない、致命的な弱点がある。AIは生産をすることはできても、電気以外のモノをほとんど消費しないからだ。消費をしないAIに働いた分の給料を与えたところで、そのお金は二度と流通せず、闇に消えたのと同じことになる。お金を経営者が独り占めしたところで、経営者はAIによって失われた数百万、数千万の労働者の消費を代替できない。AI時代になり、労働者がAIに置き換えられ、格差社会が進めば進むほど、生産は増えても消費は減ってしまい、経済活動は滞り、景気は悪化するだろう。AI時代においては、生産性など気にせず、お金を使う消費者こそが必要なのだ。氷河期世代は、つながりなどなくても、優良な消費者でさえあればいい。
 さて、消費が景気の決め手というのは論を待たない。円高不況が待ったなしという状況下で、消費増税を行うという愚策。氷河期世代どころか、国民の多くを崖下に突き落す所業といわざるを得ない。

 

 

 

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