アメリカンファミリー保険(アフラック)の名を初めて知ったのは、同社が富山県がん対策基金に寄付するという報道だった。89年に、前年の知事選でがん撲滅を掲げた中沖知事ががん対策推進本部を立ち上げた頃である。大竹美喜社長自ら来県し、外資系保険会社というのは、情報に敏感に反応するものだと記憶している。また、同社は地方鉄道企業を代理店として活用し、大きく業績を伸ばしていた。静岡にある遠州鉄道が皮切りだと聞いていたが、富山でも加越能鉄道が代理店となり、鉄道・バスの不振を補うくらいの勢いであった。第3分野といわれるがん保険で、新しい販売チャンネルを地縁血縁を大事にしている地方鉄道企業に求めたとすれば目の付けどころがいい。マーケティングの成功例とひとつといえる。
そんなことを思い出したのは、TPP交渉を前に、日本郵政がアフラックとの提携強化方針を明らかにしたからである。ローカルに張り巡らされたかんぽ生命が養老保険や学資保険ではなく、外資系のがん保険を売るというチグハグだが、この時期にどうして、と誰しも疑うのは間違いない。地方鉄道企業とかんぽ生命、そういえば体質も似ている。個人的にはがん保険はそれほど必要ないと思っている。高額療養費の補助制度を利用すればそれほどの負担にはならない。しかしこれが医療費の圧縮ということから改悪されると話は別である。まさかそこまでは目論んではいないと思うが、圧勝した安倍政権だけに目がはなせない。
更に昨年11月に開かれた日米財界人会議で「日本がTPP交渉に参加することを強く支持する」とした共同声明を採択したが、その時の米側議長はアフラック日本のチャールズ・レイク代表であった。誰が描いた筋書きかわからないが、米側への配慮を臆面もなく、これでもかと思うくらいにやっている。
こうしてみると、TPP交渉の本質はどこにあるのか、ほの見えてくる。既に自動車分野で、米国が日本車を輸入する際にかける関税を、米韓の自由貿易協定で結んだ5年よりも長期にわたって維持することで譲歩、合意している。つまり現代自動車よりトヨタが不利になってもいいといっているのだ。
こんな報道も知っておくべきである。コタキナバルで取材した東京新聞・吉田通夫の署名記事だが、自民党の西川公也TPP対策委員長ら議員団が現地入り時には、肝心の米国業界団体関係者がほとんど帰国済みで、対応した米国商工会議所のアジア地域担当者の若手女性職員が「日本も農政の改革を進めることで、農業も聖域にしなくて済むのではないか」と全く日本を問題にしていない態度であったという。国民のために何が必要かという視点をもたないまま、まるでアリバイ作りだけの交渉のようだ。
相変わらずの老人の繰り言で申し訳ない。しかし少なくとも3年、この長期政権に付き合っていくのは相当ストレスになることは間違いない。
ストレスといえば、それとは全く無縁とばかりに、わが母・ゆき枝は7月23日白寿を迎えた。大正3年の生まれで、戦中、戦後を乗り切っての99年はいかばかりかと思うのだが、誕生ケーキを前に「あんた、お金、持っとがけ」と問われると、こちらはいつしか少年になってしまう。全羅南道光州東町と話しかけると、ようやくに記憶の回路が繋がる。辛かった引き揚げ体験も、生後45日のあんたを守るのに必死だったからと問わず語りに伝えてくる。
アフラック