フインランディア

7月11日、北陸銀行本店で円をユーロに換えた。手数料込みで170円だという。「え!遂に170円を超えたのか」。円高不況で慌てふためいていた時もあったのに、この変わりようは何なのか。驚きと諦めがないまぜになった気分である。旅行代理店からは、購買力は1ユーロほぼ100円と思ってくださいと聞かされている。170円で100円の買物をするということだ。ともあれ、念願の北欧行きが実現する。
 「おい、これを聞いてみろ」と学生時代に、講談社の世界名曲全集から1枚のLPが取り出された。高校時代は野球で鳴らした男で、音楽とは無縁と思っていた。富山・岩瀬中学時代の音楽教師・佐藤某の影響だという。うれしそうに、誇らしく音楽を語る。その1枚がシベリウスの交響詩「フインランディア」だった。ベートーベンとチャイコフスキーしか知らないところに、珍客が紛れ込んできた感じである。4畳半一間の下宿に、月賦の緑屋で求めたビクターのステレオが不似合いな位置を占めていた。
 それから40年余。その交響詩をヘルシンキで聞くことになったのだ。何気なく頼んでみたのだが、チケットが手に入ったという。シベリウス没後50年というメモリアルも手伝っている。こうした因縁に導かれている不思議を思うと、ひょっとしてコンサートホールで涙を流すかもしれない。
 ベルリン、ストックホルム、ヘルシンキと10日間、福祉事情を探るという名目での、気楽?な旅である。3都市の高齢者専用の賃貸住宅などの見学が中心である。
 旅の前に読んでおきたいと思った1冊がある。「やっぱり“終のすみか”は有料老人ホーム」(講談社)。ホーム選びの極意を伝授してくれる。?廊下の広さは、車椅子がすれ違えるほどかどうか。?人手が十分たりているかどうか。?死ぬまで自室を利用できるかどうか。認知が進んだ時に介護専用の雑居部屋に移されてしまうことはないのか。また?老人ホームでどのくらいの比率で葬儀が行われているか。葬儀が多いほどそのホームが評価は高いということになる。入居者がそれほど愛着を感じていた証明ともいえるからだ、などなど現場主義に徹して、なるほどと納得させられる。著者は有料老人ホーム「グリーン東京」を経営する滝上宗次郎。一橋大を出て、三菱銀行調査部での勤務経験を持ち、社会保障改革で多くの公職についていた。福祉の民営化に当たり消費者保護の方針を強く訴え、それにより高齢者が安心して民間サービスを購入できる。そうした消費が喚起されてこそ、少子高齢化の時代でも経済が成長できることがなる。そんな持論を述べ、介護保険の破綻をいち早く予言するほどの優秀な男だったが、1月20日に心筋梗塞のため急逝した。54歳であった。
 高齢者住宅のマーケットをどう開発するか、急がなければならない。団塊の世代が前期高齢者(65歳以上)から、後期高齢者(75歳以上)に移行するこの時期を逃がしてはならない。単純に街なか居住では何の解決にもならない。多くの住みよさソフトが詰まっていなくてはならない。
 台風が接近にしてきて、急遽1日早く上京することになった。あわただしい。というわけで、次週は休載となります。
 

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