チョムスキー。

ひとつ宿題を抱えている。これがずっと引っかかっていて気持ちが晴れない。カナダの大学に留学している姪っ子からのメールである。

「日本とかってアメリカに合併してもらえばいいんだ。寮の彼女達がいうには、どうせ日本にはもう国民性も何もない、だれも歴史や文化や伝統のことなんか知らないし気にしない。そこへきてアメリカに中途半端に頼ってこの苦しい経済の中過ごすんなら、アメリカになっても別に変わんないでしょ、失われるもの無いし。私は、日本の経済が回復すれば日本はまた立ち直れると思っていました。しかしこれを聞いて考えてみれば、日本という国は名前だけじゃない、土地と人だけじゃない、長い歴史と伝統と文化と全て含めて日本なのに、今それを知っている日本人はいるのだろうかということです。そしてこのままではいずれ本当に日本は無くなってしまうのではないのかと、すごく怖くなりました。

日本人は本当に何も知らなくて、何も考えてなくて、自分の国に誇りももてない、情けない人種ですね。結局、彼女達の言うアメリカに合併してもらえば・・・というのも、人に頼って未来を変えてもらおうという甘ったれた考えのようにしか思えません。」

日本人を60年やってきたおじさんには、きつい質問である。そして今、イラクに続いて北朝鮮問題が焦眉になってきた。日米同盟しかないではないかと逸早く、イラク攻撃支持を表明した。それでは本当に、金正日の暴発の前に米軍は立ちはだかってくれるのか。さにあらず、ということであればもう一歩進めて米国日本州にしてしまえ、ということになる。さて一方、ネオコン民族派は、時来たれりと憲法改正、再軍備、核保有もおおっぴらにいい出しそうな雰囲気である。

そこで、一人の知識人と、南米で日本と同じ平和憲法を持つ国のことを宿題のきっかけに知らせることにした。

一人の知識人とはチョムスキー。1928年フィラデルフィアに生まれる。50年代後半以降、生成変形文法理論の成果を次々と発表し、言語学の世界に革命をもたらした言語学者である。一方、65年に米国が北ベトナムへの爆撃を開始する以前から、米国の外交政策に対する批判を開始、その作業は現在に至るまで続いており、とりわけ2001年「9月11日」の同時多発テロ事件以降、中東情勢と米軍のアフガニスタン爆撃に関する発言は世界の大きな注目を集め、インターネット上でもその見解が数多く紹介されている。4月24日、何が何でもと思っていた映画「チェムスキー9.11」を金沢シネモンドで見た。「アメリカこそ世界最悪のテロ国家なのだ」という事実を講演の中で淡々と語っていく。南米、中近東でアメリカが対外援助と軍事援助している国は、ほとんどが基本的人権を侵害しており、半面でアメリカの投資環境は極めてよく、そこには相関関係がはっきり見てとれるという。わが記憶では、チリのアジェンデ政権がある。地球の反対側とはいえ、こんなに素晴らしい民主的な政権ができたのかと熱い眼差しを送ったのだが、CIA陰謀による軍事クーデターであっという間に瓦解してしまった。そのあとのアジェンデに加担した人々に対する凄惨を極めた殺人、拷問は、遠くのわれわれをも戦慄させた。その手法はなんら変わっていないという。今回のイラク攻撃でもわかるように情報操作は徹底していて、真実は覆い隠されている。数少ないのだろうが、彼の講演はどこでも大人気で、待ちかねた人々は熱狂的に彼に拍手を送り、著書にサインをねだる。今回の北朝鮮問題でも彼の論評をぜひ注目しなければならない。

そしてわが国と同じ平和憲法を持つのはコスタリカである。南北アメリカ大陸をつなぐくびれたところにある。太平洋とカリブ海に挟まれ、温和な気候に約400万人が住む。1948年に大統領選の不正から内紛が起こり、それを制したフィゲレス大統領が軍隊放棄を宣言した。近隣諸国で度重なって紛争が起きるが、果敢な外交努力で自国に及ばないよう仲裁に努め、50年以上非武装を続けている。軍事費は教育、医療、環境保護に回される。こんな国も存在するのである。

わが姪っ子よ、遅くはない。学ぶことだ。声高に小泉首相に叫んでみても解決にはならない。寮の友達と小さいが、確実に自分で学んだこと考えたことを語り合うことだ。そしてそれほど卑下することもない。そんな積み重ねで変わっていく。小さな積み重ねが大きなうねりを生むことになる。
 おじさんはもう年老いた。シネモンドで眼をこらして見ようと思うのだが、延々と続く字幕スーパーに眼が疲れ果て、ついうとうととしてしまった。耳で聞こうとしたが、わが英語力でとてもとてもついていけない。老兵は消え去るのみだが、人間の盾ぐらいにはなれと思う。頑張ってくれ。

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