何気なく取った本に衝撃を受けた。日韓関係を研究している権赫泰(クオン・ヒュクテ)韓国・聖公会大学日本学科教授の「平和なき平和主義」(法政大学出版)だが、手厳しいが的を得ている。平和主義という言語は日本にとって麻酔剤といえる。自衛隊、在日米軍、米国の核の傘下と揃えながら、平和とは程遠い日本の現実を隠ぺいし、世界的に見て想像以上に武装しているにもかかわらず、平和日本という誤ったイメージを人々に与えている。 また、この平和主義には旧植民地に対する加害の記憶が忘却されている。そんな日本社会の「平和主義」を守るということは、植民地支配責任を果たさない「戦後」までも守ることになりはしないか。というものだが、彼は58歳で、一橋大学院に学び、山口大学准教授も務めた円熟の知識人といっていい。こうした欺瞞の指摘にどう応えていくか。 韓国生まれで、戦後民主主義を標榜する老人には重くのしかかる。
とりあえず岩波新書「在日米軍 変貌する日米安保体制」で、日米同盟の実態を読み解くことから始めることにした。著者は80歳の梅林宏道で、東大教授、長崎大学核兵器廃絶研究センター長を務め、15年前にも同名の新書を出している。いわば円熟のリベラル論客といっていい。
外交の基本は何をさておいても日米関係だというが、実は日米軍事同盟に他ならず、米軍の世界展開に深く刻み込まれている。気が遠くなるような、動かし難い既成事実が積み重なってきていることからも承知しておかねばならない。安倍政権が集団的自衛権の行使案をわれわれ主権者を差し置いて、先に米国議会で言明したように、先へ先へと進められている。誰も文句はいえないだろう、という傲慢だが、知らしむべからず、拠らしむべしの先取りといっていい卑しさが国民にもある。巻末の日米安保関連年表を見ると、50年6月25日の朝鮮戦争勃発を契機にスパイラルに米国の世界軍事戦略に絡め捕られていくのがはっきりしてくる。15年の安保法制改定、17年の共謀法、そして9条に自衛隊を書き込む憲法改正はその総仕上げとなることは間違いない。名実ともに独立国家といえなくなる。自衛隊員の命は米軍の世界戦略に供され、日本の軍事費は倍増を求められ、おもいやり予算も加えてその世界戦略コストの肩代わりになっていく。そんな現実を他に選択肢のないだろうと受けて入れていくのか。この1年が勝負時である。どれほど難問に見えようと、この欺瞞に取り組まない限り、国際社会において、名誉ある地位を占めることはできない。
梅林宏道の在日米軍の将来を見据えながら、非軍事の選択枝に耳を傾けよう。米軍全体の変化を特徴づけている情報技術の進展と、対テロ戦争と米中ロの主導権争いの地政学的な変化に注目する。「簡単にいって、何かを諦めなければならない。財政難のなかでこんなハイテンポな軍隊の維持は持続可能ではない。われわれはもうまともな準備はできない」。これが米軍高官の本音である。「もし武力攻撃があったら」という論理で生命財産を守ろうとすると、その生命財産を超えるものを失ってしまうという逆説である。モンゴルは98年国連総会決議で「モンゴル国の国際安全保障と非核地位」という採択で非同盟路線を選択した。これに加わって日本、韓国、北朝鮮が非核地帯を構成することも選択肢である。これを米中ロが保障する北東アジア平和構想だが決して不可能ではない。
とにかく在日米軍は日米安保とほとんど無関係に存在している米軍の前進部隊であるという厳然とした事実と、その米軍に寄り添う自衛隊でもって専守防衛ということはできない事実をはっきり認識して、平和への舵を切らなければならない。そのためには現政権を一日も早く退陣させることであろう。
「在日米軍」
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