「近代秀歌」「現代秀歌」

 80歳の単身男子は買い物が苦手である。下着などは特に面倒で、しぶしぶユニクロでさりげなく買っている。しかし、長年愛用しているズボン下(ステテコ)が見当たらない。友人に聞くとショッピングセンターにあるという。富山の国道41号線沿いにあるアピタを教えてくれた。紳士用下着売り場はほんの片隅に、ただ置いてあるだけ、店員に聞かなければわからない。その店員が少ないのだ。ようやく年配の店員を見つけ、駆け寄ってようやく手にいれた。帰り際、店内を見渡して見ると、何と本屋があった。

 清明堂アピタ富山店。雑誌、新書、文庫中心ながら、それなりのスペースである。清明堂といえば、総曲輪にある3階建ての本店は100円ショップとなり、駅前マリエ店は数年前に閉じていて、唯一残っているのがこのアピア店。半世紀前、クルマ社会の到来で、中心商店街が寂れ、郊外のショッピングセンターにテナント出店して、何とか売り上げを確保しようとした。恐らくその系譜をひくもので、このアピタ店そのものも閉鎖が決まっており、恐らく家賃は最小限で光熱費だけに違いない。

 筆者が地方紙の出版広告を担当していた時に、清明堂総曲輪店がオープンした。地方では珍しい大型店で、ほとんどの出版社がお祝い広告を出してくれ、当日の朝刊は出版広告で埋め尽くされた。店の壁面には新潮社から贈られた谷内六郎の版画絵が飾られ、当時の丸田外喜男社長は得意の絶頂だった。そんな恩義もあり、このまま素通りするのも悪いような気がして、書棚を見ていると岩波新書が目に留まった。「近代秀歌」「現代秀歌」。ご存じ永田和宏が「あなたが日本人なら、せめてこれぐらいの歌は知っておいて欲しいぎりぎりの100首である」と選んだもの。座右において、ちょいと開けば「歌の世界」に飛び込むことになる。例えば若山牧水だが、「かんがへて飲みはじめたる一合の二合の酒の夏のゆふぐれ」「人の世にたのしみ多し然れども酒なしにしてなにのたのしみ」「それほどにうまきかと人のとひたらばなんと答えむこの酒の味」。牧水にこれほどまで酒を称賛されれば、酒を呑まないわけにはいかない。そして、牧水最期の時だ。瀕死の床でも酒を絶やすことなく、享年44歳で亡くなったが、死後3日を過ぎても屍臭や死斑が現れなかった。それは全身に沁み込んだアルコールによるものではないかという医師がいったとか。その酒の飲み方にある種の凄絶さをも感じざるを得ない。

 そして、岡本かの子だ。「人妻をうばはむほどの強さをば持てる男のあらば奪(と)られむ」。強い男を出でよ、力づくで人妻を奪うほどの男が現れれば、そんな胆力を持つ男であるならば、喜んでその腕に奪われてやろう、いや奪っていってほしい。あれこれと思い悩む優柔不断な筆者が、一瞬にして蹴飛ばされる思いがした。清明堂アピタ富山店との出会いに感謝だ。

 

  • B!