新春若者考

「おじさん、俺の年収240万円で3年間止まったままだよ」。米の請負耕作をやるJA系列企業に勤める35歳。「農業は自然を原材料にしているからだ。2倍働いても生産性が2倍上がることはない。減反政策は続くし、米価は下がるから、つまり永久にそのままと考えた方がよい」。年齢構成も高く、久々に入社した若者もすぐに退社し、職場の士気も上がっていない。30歳にしての転職がいかに難しく、結婚は遠い夢と嘆く。
 彼と同年、高専電気科を出て、三菱電機系列に務めて15年。「毎月の残業が100時間を越えているんです。イライラ、ぐったりの毎日ですよ。採用を抑えている影響ですね」。「工場新設など投資は増えそうにないから、働く環境が好転するとはいえないね。まだいい方かもしれない」。15年のキャリアが自信となり、残業など仕事の進め方について上司といえども口を出させない。家庭環境が厳しい中で育ち、自立を強く意識している好青年。そんな彼も結婚なんて、とても考えていないという。
 昨年4月、札幌の工学系私大を出て、アイシン系列のエンジニアリング企業に就職して1年。刈谷市で寮生活を送る23歳。トヨタ車の売れ筋を見極め、工場の配置を速やかにチェンジする仕事らしい。「図面を広げて、ここをこうして変えてください、と支持するだけなんです。図面引きは厳しき指導されています。CAD、CAMを信じるな。自分の頭で考えて、自分で図面を引くんだ、と毎日いわれています。ぐったりして寮に帰るだけの生活だから、カネは貯まります」。「ものづくりの基本だから、じっくり構えて、設計のイロハを徹底して学べ。また、下請け企業の人に丁寧な応対をしろ、相手はほとんど年上なんだから。手伝うことがあったら、積極的に手伝え。そして、設計と実際とどう違うか、聞くことだ。貯金も大事だが、自分に投資も忘れないことだ」。男兄弟の長兄だから、まっすぐでしっかりしている。トヨタ戦略に振り回されることになるのだが、海外生産の比重が高まる中、海外勤務も視野にいれておかねばなるまい。
 昨年12月、死者も出る思いがけない爆発事故を起こした化学会社に勤める32歳。「行政処分も決まらず、出社すれども仕事がない状態が続いているんです。不安ですね。今後どう進むのか、情報が全く入らないんです。同族企業の宿命なんでしょうか」。「売上高30数億円でここ数年横ばい、従業員180名。医薬品は好調とはいうが、薬価の低迷、競争激化、新薬開発の至難な状況などから推察して、中間に甘んじざるを得ない地方小企業の舵取りは難しい。しかも同族企業というのでは、思い切った再生プランが出てきそうにもないね。むしろ、これを奇貨として、大胆な人材登用で、経営戦略を描くことだと思う。どうだろうか、ここは経営の了解の下で、若手だけで経営再生委員会ぐらい立ち上げてみるのもいいかもしれない」。三洋電機のつまずきも、中越地震で子会社が生産中止に追い込まれたのがきっかけだった。地震保険に入ってなかったのも原因だが、大企業でさえ回復は至難の業だ。それだからこそなお、同族の枠を超えて再生存続の知恵を出し合わなければならない。従業員の雇用維持こそ最も大事。佐藤工業の事例を待つまでもなく、途方に暮れざるを得ないのが従業員と家族。企業が潰れても、人間の生活は潰れない。そんな制度の確立も急がなければならないのだが、道はまだまだ遠い。
 こんな若者達の現実を前にしていいたい。参議院選挙の争点は憲法改正という安倍首相の政治感覚は全くの的外れ。間違ってもそんな誘導に乗ってはならない。
 いま手元に「金子勝の仕事道」(岩波書店 1500円)がある。不安や悩みを抱える若者達にぜひ、読んでほしい。ちょっとしたきっかけで、不安が希望に変わる時もあるのだから。
 おめでとうございます。わが年末年始は若者と接する貴重な時期、老婆心での、おせっかい講釈。許されよ!

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