鍼灸師

まだ見ぬ彼女がいる。98年夏、全国大学女子野球大会(毎年魚津開催)以来の付き合い? その時は上智大学野球部監督であった。采配が実ったのか、創部9年にして悲願のベスト4に輝いた。「魚津の暑い夏が終わる」で始まる歓びの手紙は、お世話になった魚津の人々に届いた。受け取った人はみんな胸を熱くした。それ以来のペンフレンドである。
 大学1年の時、この大会を目指す先輩達のひたむきな姿に感動した。「届かなかった1点を1年かけて埋めてきた。どんな球でも打ってやる、どんな球でも取ってやる」。これが上智の掲げるスローガン。そんなガッツあふれる集団なのだ。へなちょこ男子を超えている。現役のプレーだけで満足できず、就職を断念、フリーターをしながら3年間監督を務めた。7年間魚津にやって来たことになる。チームを離れても魚津に行きますといい、その時には寿司でもつまみながら、とハガキで約束した。いまだに果たしていない。それから彼女は大阪のクラブチーム「ワイルドキャッツ」に転じた。野球から離れることが出来ない。根っから好きなのだ。
 そして、昨年の賀状。バイク事故による頭の手術で丸坊主です。今年の賀状。4月から鍼灸師となるための第一歩を踏み出します。厳しいですが、これまで支えてくれた人に恩返しをするためにも頑張ります。また、果てしなく遠い道を歩み始めたようだ。
 不思議なものである。1月19日突然、呑もうと電話をかけてきたのが、明治鍼灸大学教授の矢野忠。小学校の同窓である。富山での講演会を済ませてやってきた。早速、彼女を話題にすると、スポーツ医学分野への鍼灸の進出は目覚しいという。予防やリハビリに最適で、マッサージなど身体に触ることで精神的な回復につながる効果は大きい。今後も鍼灸へのニーズは広がることは間違いない。彼女の狙いも、そんなところかと推測している。しかし、この大学は年間納付金が300万円、4年間で何と1200万円である。3年次で国家試験の受験資格が認められ、4年次には附属病院や附属鍼灸センターでの実習となっている。私立ゆえに教授陣への要求もきついと、矢野は嘆く。開業資金まで考えると、難しいと思えてくる。3年制の専門学校でも、500万円は必要のようだ。単純にエールを送るわけにはいかない。
 思い出話も尽きないのだが、補完代替医療という言葉に飛びついた。サプリメントや、カイロプラクティック、ヨガなど含む伝統医学、民間療法を指すが、鍼灸もその分野に入る。次いでEBM(Evidence-Based Medicine)も。科学的根拠に基づく医療という意だが、西洋医学と同様に有効性や安全性を検証していくのは大変である。といって、補完代替医療をなくしていいわけではない。例えば、腰痛患者が整形外科だけで治ると思っておらず、ほとんどが整体や鍼灸を併用している。西洋医学に補完代替医療を取り入れた統合医療が、個人の体質、考え方に沿ったオーダーメイド医療として定着していく方向にあるという。
 そんな翌日に、旧知の滝上鍼灸院がイムニタスマスクに興味を示している、との情報がはいった。10年前に、亡妻の肺がんへの疑いを真っ先に指摘してくれた人である。これも奇縁と、早速と出かけてみた。「亡くなられて、もう十年ですか。早いものですね」と目は不自由だが、元気な口調は全く変わっていない。待合室には、おばちゃん二人が治療の順番を待ちながら、世間話に興じていた。折角だからと、身体を診てもらった。極めてバランスの悪い身体だという。マスクの所見は来週に聞くことになった。
 さて、イムニタスマスクのEBMである。眠りが深くなり、昼間の睡魔がなくなったという中年男性。のどが弱く、冬には必ず風邪を引いていたが、今年は無事で、娘(女子高校生)は夜必ず着用しているという主婦。ペットボトルを枕元に置いて、数回口にしていたが、朝まで我慢できるようになった女性。実名でもいいという体験談、症例が寄せられているが、エビデンスを行ってくれる機関がない。あったとしてもその費用負担には耐えられそうにない。
 「あるある大事典」にも然るべき筋から、アプローチしていたのでは、だと。見損なうな!

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