米外交筋は既に予見している。米中の狭間で右往左往し、右顧左眄する日本外交の姿だ。リマでは、去り行くブッシュとの首脳会談を30分という時間を持て余して切り上げ、そのブッシュが胡錦濤とは時間を延長して1時間も話し込んだという。世界同時大不況はアメリカの凋落、中国の台頭を明らかにしている。中国は今や世界一の外貨準備高だ。それはドル建てであるから、その動向がドルの命運を握っている。放出すればドルが大暴落し、米国債は見向きもされず、必死の予算投入による救済策も水泡に帰してしまう。
麻生首相はいち早くIMFへの10兆円拠出を明言し、中国にも同様の拠出を促したが胡錦濤ははぐらかした。日本に回答するよりも、米国から頭を下げられての方が絶対に得策だということは誰にもわかる。オバマがどんな手を打ってくるのか、中国はその威信をどう示すのか、注目していかねばならない。どんな人にも影響を与えずには置かない。きちんと眼を見開いて、怖がらないでこの激動を見つめていこう。
日本の歴代首相はアメリカのこととなると、国民をさておいて、前のめりになって焦ってしまう。10兆円とは消費税5%に相当する。お坊ちゃんの軽率ということになるが、来年4月まで続くのかと思うとと、もううんざりとしてしまう。
歴史の大きな流れはどうか。大航海時代に君臨したポルトガル、スペイン、その後を受けて覇を唱えた英国、フランス、オランダ、そして産業革命だ。その生産力は大きく飛躍し、生産と消費を市場にゆだねる資本主義が大きく花開き、米国がその果実を享受してきた。ちょっと余禄に与った日本をあっという間に通り越して、中国へと中心軸は移動している。その後はインド、中欧に移るのだろうか。栄枯盛衰は西に向かって繰り返されているといっていい。
さて、「レッドクリフ」だ。三国志のクライマックス「赤壁の戦い」を描く中国語による娯楽大作映画で、製作費は100億円を超える。2部作でPART?は来年4月というが、既に中国で48億円の興行収入を得ている。製作費の数倍は確実だろう。その製作費だが中国、日本、台湾、韓国が出資している。日本の出資会社はエイベックスで、30億円だという。そんな情報を得て、ファボーレ東宝に24日足を運んだ。ほぼ埋まっている。吉川英治の三国志で育ったシニア世代も巻き込んでいるのだ。ほぼ満足させる内容だった。
なぜ今、三国志だったのかと考えてみた。中国は、製作配給を担う国内初の民間会社が資金を出し、人民解放軍兵士千人をエキストラで使わせ戦闘シーンを撮っている。国家の意思がこの映画を生んだといっていいのではないかと思う。北京オリンピック終了後の総括顕彰大会で胡錦濤はこうあいさつした。「中国は世界に対して人類文化の発展に貢献できることを示した。中華民族の偉大な復興途上のひとつの歴史的な節目であった」。偉大な中華民族の復活を強調している。北京オリンピックの高揚が、レッドクリフによって更に高まり、曹操が、劉備が、孫権が、この世界同時不況の現代に、まるで救世主のように復活してくる。そう呼びかけているようにも思える。
激動する世界の中で、この中国と本格的に外交交渉をしていかなければならない。脅威論だけを叫ぶ政治家では対応できないことは明白である。台湾、韓国をまじえて東アジアの枠組みでの構築を思う時、このレッドクリフが先駆けてくれたのではないかと気がついた。エイベックス人脈を手がかりに、新中国外交の一歩を刻んでほしい。本当にそう思うようになった。経済でも、中国には不安要素はいっぱいあるが、米国の復活よりも中国に賭けた方がよいと思う。それにしても日本の“孔明”の出現が待たれる。
そういえば関係ないことだが、高校時代に映画「十戒」を見た時、群集シーンは英語でモブ(MOB)シーンというのだと、友人の佐藤広明君が教えてくれたのを、なぜか今思い出した。
レッドクリフ
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