報道にもタブーはある。触れたら、今後の出入り禁止とか、また猛烈な反撃が予測されるとかで、ぎこちない報道になっている。北朝鮮による拉致被害者家族会関連のものがそうで、不自然なものを感じていた。遂にというか、3月27日家族会総会は、蓮池透・元副代表を退会とした。除名に近いものである。北朝鮮への圧力重視にこだわる家族会にとって、彼が対話を重ねる必要があるとの立場に転じたことが許せないという。「私を外して、解決につながるのなら、退会を甘んじて受け入れる」と蓮池・元副代表。こんなやり方しかなかったのか、やり切れない思いがする。
家族会が結成されたのが、97年3月。この前年、北による拉致らしいと取材を深めていたテレビ朝日のプロデューサーが「金正日の拉致指令」を出版し、更に韓国に亡命した北朝鮮工作員から取材した少女拉致に関する原稿を「現代コリア」という雑誌に掲載した。ここから拉致問題が急展開していく。舞台は新潟で、北朝鮮帰還運動が背景となる。社会主義国家・北朝鮮を「地上の楽園」と謳いあげ、59年から84年まで、在日や日本人妻を中心に新潟港から93,340人を北朝鮮へと送り出した。その悲惨な結末はいうまでもない。この帰還運動を担っていた社会党、共産党の新潟在住の活動家たちが、その忸怩たる思いから、現代コリア研究所代表を招いて、同年末に新潟市内で小さな勉強会を開いた。そこに参加していた新潟県警の関係者が、拉致された少女の話を聞いて、“それ、めぐみちゃんのことじゃないか”といい出したのが、きっかけとなった。横田めぐみさんである。日本銀行新潟支店を既に退職していた父・横田滋さんにたどり着くまではそう時間を要しなかった。97年2月3日、朝日放送と産経新聞のスクープとなって報道された。家族会立ち上げは、このプロデューサーと独自に情報収集を行ってきた議員秘書に負うところが大きい。
ところが、この家族会を支援しようとしゃしゃり出てきたのが「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」で、「救う会」といわれる存在である。現代コリア研究所に事務局がおかれ、彼らの主導のもとに、帰還運動の失敗からの揺り戻しともいえる、極端な北憎しという政治的な主張、思惑が前面に出てしまう。メディア批判は過激なものとなり、外務省の人事にまで口を挟むようになり、平壌宣言を国民に対する背信行為とまでいい切るようになったのである。カネの話もある。会場でのカンパも北制裁論に高揚した聴衆から想像以上に寄せられたし、平沢勝栄議員事務所でこの運動を支持する実業家から2000万円渡されたりもしている。救う会では着服疑惑を告発する騒ぎまで起きている。「北が拉致で謝罪しなければ、席を蹴って帰国しましょう」と発言した安倍晋三首相を選んだのも、家族会と救う会の存在は大きかったように思う。
蓮池透は述懐する。「この風潮を作るのに、私も一翼を担ってしまったかもしれません」。これでは、拉致被害者を一人でも多く救出するという本来の目的を離れ、ナショナリズムを盛り上げたり、北朝鮮の体制崩壊を望む政治運動と一体になってしまうのではないか、と懸念する。
政権が変わったけれど、拉致問題はまったく進展していない。なにしろ中井拉致問題担当である。下手に動いてもらっては困るという見方もあるが、問題意識として次の通りだ。拉致問題解決の糸口を見つけ、北朝鮮との戦後処理をスケジュールに乗せることが北東アジアでの平和維持の大きな進展となり、この問題を解決する外交能力こそ米国との対等交渉の布石になると考えたい。それが、ひいては基地縮小につながり、普天間の展望も開けると思うのだがどうだろう。
参考/「家族会と救う会の12年」青木理(世界1~3月号)。「勇気ってなんだろう」江川紹子著(岩波ジュニア新書)
拉致家族会
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