あなたの眼はもう見えなくなる」と宣告されたらどうするか。わずか30分間だが見えない暗闇を経験する。ビルの一室を真っ暗闇にして、街並み、遊園地、森の中、車が行き交う路上、カフェなどが作られている。晴眼者6人がグループ。渡された白い杖で足先を払い、手探りで進む。この企画のポイントは視覚障害の人がひとりガイドをしてくれること。立場が逆転するところがみそ。その人の声を頼りに進む。小川もあり、踏み外すと足元が濡れてしまう。鳥の声を聞き、樹木に触れてその感触を楽しむ。砂利道も、落ち葉の散り敷かれた道もある。路上での車のクラクションには心臓が止まりそうになり、足がすくんでしまう。そして一段の階段を上ったり降りたりするのに何と時間のかかることか。カフェでは実際に注文が出来、ビールやコーヒーを出してもらう。どうも味までが違う。視覚が味を左右しているのだ。そこでのガイドは北村多恵さん。美人である。生まれた時に視力は失われていた、と明るく。最後にフルートの演奏をしてくれた。晴眼者のわれわれが癒されるのである。
5月の連休に神戸で開かれた「 Dialog in the Dark」(暗闇の中の対話)という催し。これは1989年にドイツのアンドレアス・ハイネッケ博士が考案、既に世界70都市で開催100万人以上が体験している。障害者と健常者の新しい関係を生み出そうとしている。これを富山で開催したらどうですか、と勧めるのが実行委員長の金井真介さん。東京で別の職業を持ちながら、30人を超すボランテイアの協力を得て開催に漕ぎ付けた30代の好青年。都会の開催とは一味ふた味違ったものになること請け合いです、と。
はてさて重たい宿題を持たされたような気持ちを抱いて帰途についた。