バブル景気の終焉は91年とされる。乗り遅れまいと、富山県内でもゴルフ場建設計画があちらこちらで立ち上がり、先を急いでいた。その頃の話である。二人の社長はさる割烹の離れで、深刻な表情ながら酒を酌み交わしていた。ひとりは銀行から転じた鉄道系企業のトップであったが、創業者の隠然とした力を背景に会長がまだ実権を握っていた。いまひとりはITの先駆けで上場も果たし、破竹の勢いで高さ111メートルの新社屋建設も視野に、銀行電力の旧勢力に対抗し、新勢力を担うリーダーと目されていた。こよなく日本酒を愛することと、地方人にない洒脱さで馬が合った。抜き差しならない話を避けてきた間柄だが、きょうだけは逃げるわけにはいかない。興銀出身のトップは、膳を横に置くや深々と頭を下げた。沿線で計画していたゴルフ場計画がかなり進展した時、つんぼ桟敷に置かれていた会長がそれを知るや激怒して、白紙に戻せ、と厳命したのだ。白紙に戻せない段階に来ており、この計画を肩代わりしてくれる企業といえば、目の前の彼しかいなかった。ここまでは、多分こうだったのではの想像である。
5月26日朝刊で、この企業のトップ交代記事を読んだ。73歳の社長が代表権のある会長につき、専務7年、副社長3年を経る68歳の副社長が社長につくという。この激動を乗り切る体力、知力はこの年齢にして残っているものだろうか。永すぎるナンバー2は消耗し切っているのではないか。何よりも、この企業では時間が止まっているのではないか。そんな疑問がこの秘話を思い出させてくれたのである。何かに脅えるように、決断を先送りし、自社の不利益を他社に付け回して恥じない企業文化といっていい。若い有為な人材は余りの息苦しさに窒息寸前となり、社内には無気力、脱力感だけが漂っているのではあるまいか。
秘話のその後である。引き受けたIT企業は、最初こそ会員権の販売が順調そうに見えたが、ご存じバブルがはじけた反動をもろに受けて、悪戦苦闘が今に続く。もちろん企業規模の拡大によって、大きなダメージとはならないが、納得のいかない赤字垂れ流しを引き受け続けている。一方頭を下げ、肩代わりをしてもらった企業は、大粛清が待っていた。関係者をすべて傍系、関連会社、関連団体に飛ばすなど徹底したものだった。有能無能を問わず、の放逐である。一方で、そのゴルフ会員権を何枚か引き受けたとかの話を、ついぞ聞かない。そんなことがありましたかね、という風である。企業文化のバックボーンとなるのが誇りである。誇りと気概を失くした企業の人事とみていいだろう。異があれば、経営実績で応えてもらいたい。
例えばリクルートだ。バブル崩壊で不動産、ノンバンクで抱え込んだ負債は1兆4000億円、これを本業利益で返済した。心意気といってもいい。さあ、やってやろうじゃないかという心意気がなくては、経営とはならない。
といって、秘策があるわけではない。よくいわれることだが、「ヨソモノ。ワカモノ。バカモノ」を配することも頭の片隅にいれておいてほしい。地方のマーケットでしか生きていけない地方企業の限界をどう乗り越えていくか。常識をちょっと超えて、袋小路からぜひ抜け出してほしいものだ。
ところで、5月27日に感謝状をもらった。わが社?ユーウィン宛てに、社会福祉法人高岡市身体障害者福祉会“志貴野ホーム”からで、20万円を寄付したことによる。あのイムニタス・マスクが3月末日までに2,000個を販売、1個に付き100円寄付するとしていたので通算寄付額が20万円に達したのである。「スモールビジネス イズ ビューティフル」。小さいひとり企業だからこそ、やれることもある。バカモノが起業して、ワカモノを雇用し、ヨソモノに販売する。そんなことがあってもいいのではないか、と本気で思うようになった。
さて、読者諸兄諸姉の心意気はいかに!この際イムニタス・マスクを手にしていない方は、ぜひクリック願いたい。必ずや幸運が舞い込むことと思う。口呼吸から鼻呼吸へ、健康と頭脳すっきりというかけがえのない幸運である。
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