「安心してください。私が責任もって看取ってあげます」。こんな医師に出会うことができるかどうか、これが終末期医療(ターミナルケア)のポイントである。今日の状況を考えると、至難なことだ。至難だといって、厚生省に任せておくわけにはいかない。これは地域の問題でもあり、地域に力があれば、何とかなるかもしれない問題だからだ。
映画「終りよければすべてよし」(岩波ホール 7月27日まで)は、羽田澄子が急いで作った作品である。ターミナルケアで奮闘している地域の事例を目の当たりにして、これを一刻も早く伝えたいという思いが駆り立てた。手を拱いていては、病院での悲痛な死が重ねられるだけだという焦りでもある。
最初に取りあげたのが「ライフケアシステム」。80年に発足した日本で最初の在宅医療システムで、それは東京水道橋近くのビル9階にある。佐藤智医師が始めたのだが、きっかけは「自分が一番困った時に先生と連絡がつかなかったのは、本当に苦しかった。自分たちがお金を集めてそのシステムを作るから」という患者家族の一言。在宅医療を会員制で支えている。現在、会員は約350世帯。一世帯当たり7,000円。医療費はもちろん健康保険で、常勤3人、非常勤2人が定期的に回診し、24時間対応の体制をとっている。
次に紹介するのが、岐阜県池田町にある特別養護老人ホーム「サンビレッジ新生苑」。ここの元施設長・石原美智子は30年前にオーストラリア・バララット市を見学以来、そのレベルを目指してきた。いろんな施設の拡充を図ってきたが、数年前に在宅医療を勉強してきた今村寧医師が常駐スタッフに参加してくれて、ようやく思いがかなった。つまり、入所者は顔見知りのいる施設で、安心して最後の看取りをしてもらえるようになった。映画では、この今村医師も同行して、バララット市が新しく組織した「バララットヘルスサービス」も取材している。急性期病院と緩和ケア病院、それに在宅を支援する看護師、緩和ケア医師、一般医師がチームを作り、流れるような連携作業で見るからに安心感がある。オーストラリアでは医療はほぼ税金で運営されている。
次はスウェーデン。ここも在宅医療の充実に力をいれており、かつての長期療養病棟が姿を消し、医療や介護の必要な人の住居となっている様子を「ストックホルムシックホーム」などに取材している。そこには北欧らしい美しいデザインのインテリアが眼を和ませている。その在宅医療を支える強力なシステム「ASIH(アシー)」。高度な在宅医療チームという意味で、医療、看護、介護からなる組織だ。看護師が大きなカバンを肩にして、車で訪問する姿はバイキングを髣髴とさせる。この国では医療は基本的には税金で賄われているが、個人負担もある。年間医療費は約16,000円、医薬品約32,000円が上限となっている。
最後に紹介しているのが栃木県小山市の医療法人「アスムス」。「おやま城北クリニック」の太田秀樹医師が中心となっている。92年に往診という看板を掲げて始めたが、経営は苦しかった。最初の年は20人とか30人、看護婦の給与支払いにも事欠いたという。現在では130人程度、車の時間距離で15分くらいが往診範囲。整形外科、歯科、内科の各クリニック、訪問看護、訪問介護に介護老人保健施設「生きいき倶楽部」、グループホーム、デイホームがネットワークされている。
最後に、この問題に働きかける住民の力こそ必要なのです、と羽田は締めくくる。
この話を友人であるジョンにしてみた。彼はシアトル出身で、射水市太閤山在住の英会話講師である。「僕はアメリカを捨てて逃げ出してきた。あなたも日本を逃げ出したらどうか。日本がすぐに良くなることはない。あなたには余り時間がない。日本で改革に取り組んでも、その成果があがるかどうか。あがったにしても、あなたは享受できないだろう」。支払うべき税金等を考えれば、フランスがいいという。
彼はまだ「ナラティブホーム構想」が着実に進行しているのを知らない。我らが心意気を見せてやらねばなるまい。
「終りよければすべてよし」
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