オノ・ヨーコの妹ということで飛びついた。「女ひとり世界を翔ぶ」(講談社)は、元世界銀行シニアアドバイザーを勤めた小野節子の手記。相変わらずのミーハーだが、押さえておかねばなるまい。東京銀行の初代ニューヨーク支店長の父・小野英輔と安田善次郎の娘である母・磯子。この夫婦の間に3人の子供がいる。33年生まれの洋子(オノ・ヨーコ)、36年生まれの啓輔、そして41年生まれの節子。52年から57年までの5年間、家族そろってニューヨークに暮らした。戦後初めての日本人家族であったという。
上の二人は母親任せだったが、節子は父親に可愛がられた。その父が、これからは語学だと、学習院初等科に合格しているにもかかわらず、聖心女学院に入れる。63年聖心女子大学英文科を卒業し、スイスのジュネーブ大学付属高等国際大学院に進み、8年間学び博士号を取得する。しかし57年に父が53歳の若さで脳梗塞に襲われた。以後18年間も闘病生活を余儀なくされる。そんなこともあり、スイスの8年間はスイス政府から支給された月1万円の奨学金でやり繰りし、飛行機代もなかったので一度しか帰国していない。世界銀行に入った経緯は、ジュネーブで同窓だったイタリア人ピエロと結婚し、彼がワシントンにあるジョンズ・ホプキンズ大学の助教授ポストを得たためである。ピエロの安月給を補う意味もあった。大富豪といえども、三代にしてこんな生活なのである。
さて、世界銀行から見た国際公務員の実態とは。「世界銀行はおやめなさい。非常に政治的で汚い世界です」これが推薦人になった渡辺武初代アジア開発銀行総裁の忠告だった。世銀は45年の設立。最初はヨーロッパの復興であったが、共産圏への対抗から日本、ドイツも援助対象となり、現在では新しく独立した植民地、開発途上国への援助に専念するようになっている。東海道新幹線は世銀融資で実現した。
出資国の最大がアメリカで16.4%強、総裁は米国の指定席、米国の外交政策がそのまま反映されているといっていい。現総裁にイラク戦争仕掛け人のウオルフォフイッツ前国防副長官が就任しているのも頷ける。日本が次で7.8%出資しているが、国連同様軽視されている。英語力の限界もあるが、財務省からの出向組みの多くが、一時的な腰掛けと思い、本省だけを見て仕事をしていることに原因がある。軽蔑され、無能扱いされているのだ。公募に切り替えるべきである。因みに採用は然るべき推薦人があれば、あとは面接だけ。
彼女が最初に担当した国が西アフリカのモーリタニア。国土の3分の2が砂漠で、人口283万人。モーリタニアに限らないが、世銀融資が政権を握っている一部の軍人や政治家の権力維持だけに費やされることが多い。しかし、その時の政権を無視してやっていくわけにはいかない。大きなジレンマを抱えながらだが、彼女はモーリタニアで鉱山開発と農業灌漑の二つの事業を8年間でやり遂げた。同国の技術者と話し合いながら企画立案し、世銀の理事会にかけるまでの1年余は、現地に出向きながらの作業だ。関係者を粘り強く説得しながら貸し出しを図り、足りないところは世銀以外にも協調融資を取り付けなければならない。彼女はひとりでそれに取り組んだ。砂漠での水は貴重品、毎日シャワーというわけにはいかない。家中が砂だらけで、食べ物、飲み物も砂にまみれている。何よりも貧困にあえぐこの国を何とかしたいという情熱が、そんな生活環境をも乗り越えさせた。財務省枠の人材でないと思われだした時から、彼女の追い落としが始まり、米州開発銀行へ10年出向させられた。そこでも自費でスペイン語を習得するなど、仕事もこなしていく。手記の中で、榊原、内海など財務省での実名が飛び交う。これも彼女の持つ品性かな、と思う。悪口でもさわやかである。
国際公務員。とにかく英語を完璧に話せて、書ける人間でないと務まらない。それが備わり、途上国の貧困を何とかしたいという情熱があれば、面白い仕事だと思う。日本の公務員は受難の時代、今こそ国際公務員を目指す時代だ。第2の緒方貞子さんを期待したい。
国際公務員
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