神戸新聞、そしてTBS報道特集

 久しぶりに神戸新聞の名を聞いた。50年も前になるが、新聞労連が経営民主化闘争に活路を見出だそうとしていた。関西圏の地方紙・神戸新聞は全国紙とのし烈な部数競争にさらされ、経営危機が表面化。神戸市内では太刀打ちできず、日本海側で部数を確保し、当時で40数万部だった。経営民主化というが、労使協調と紙一重で、労組委員長が社長に就任したこともある。その神戸新聞が、兵庫知事選に立候補していたN党の立花孝志の街宣攻撃を受けたのだ。

 社屋正門で「知っていますか?オールドメディアには絶対書いてないけど、ネットを見ればすぐわかります」「あそこにオールドメディアの人たちがいます。ウソばっかり流しているんですよ」と畳みかけ、真偽不明のプライバシー情報をがなり立てた。若い記者はこうこぼす。「異様な選挙の現場の様子をデスクに伝えても、上層部は何もしなかった。嵐が過ぎるのを待つ。事態を矮小化し、負担を現場に押し付けたんです。実は神戸新聞に西播磨県民局長から告発文書が届いた時、県の方から照会、つまり手を突っ込んできたといいます。明らかに公益通報者保護法違反。本来ならば、この時1面トップで書くか、社説で書くか、しっかり対峙し、闘うべきだった。でもそれをしなかった。闘う時に闘わない。いくら後から反省してもだめなんです」。知事選報道2カ月の「建前公平の萎縮」が斎藤再選につながり、県民局長、竹内県議の自殺という事態をもたらした。選挙期間中こそ報道の価値が高く、また有権者が求めている。

 一方TBSの報道特集はどうか。24年8月に兵庫県が内部文書を入手し、元県民局長を追い詰めていく斎藤知事の疑惑をスクープしたことに始まる。立花はすぐに「報道特集のスポンサー企業で、最初に抗議に行って欲しい企業はどこですか?」と問いかけ、ニトリ、アサヒビール、ヤマダにメールや電話などで批判を浴びせかけた。報道特集の女性プロヂューサー曺琴袖(チョ・クムス)は怯まなかった。立花のポスターを斎藤陣営が張りめぐらすのをスクープし、双方に協力関係があることを明らかにした。この問題での放送回数は13回を数える。4月27日に早稲田大学で開催された「報道実務家フォーラム」で、「立花孝志と対峙する報道の問題とは」で曽琴袖は講演している。民主主義の根幹に関わることで、挑まざるを得なかったと覚悟を語った。

 TBSがたどり着いたメディアの矜持を決して孤立させてはならない。立花の「犬笛」で誘導される虚妄に動かされてはならない。「NHKと政治権力」(永田浩三著 岩波現代文庫)を、ぜひ読もう。

 参照/「地平」8月号 創刊1周年「新しいコトバのために」

 

 

 

 

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