期待できない政権

熊本3区の選挙区は県北部の3市11町からなっていて、農水省の補助金による「ハコ物」が目白押しだという。菊陽町の「総合交流ターミナル」は、大浴場、釜風呂に、休憩所とレストン、そして農業関連といえば、おまけのように農産物直売コーナーが入口横にあり、全体の1割にも満たない。総工費12億円。半分は国からの補助金だ。鹿本町の「水辺プラザかもと」は、野菜園、農園レストラン、物産館などの複合施設だが、やはり大浴場、露天風呂、サウナがある。総工費9億円。町の関係者は「UR予算は使いやすい。農業に少しでも関連していれば、何にでも使うことができる」と話していた。やれ使え、ほれ使えの状態だったのである。
 使われた税金は、ウルグアイラウンド農業対策費で、UR予算と呼ばれる。細川政権の93年、日本が米の輸入受け入れを決めた国際会議が南米ウルグアイで開かれた。予算額は6年間で6兆円。自民党農林族がこの時とばかり、力ずくで勝ち取った。そして、予算配分の差配を握り、何のことはない、農業対策のはずが、建設関連予算にすり替わってしまった。UR予算で強くなったのは、農業ではなく政治家の方だ、といわれる所以である。こんなカラクリを繰り返しているのである。
 安倍政権誕生で、耳を疑ったのが農林大臣人事。何と松岡利勝ではないか。彼の選挙区がこの熊本3区である。UR予算を勝ち取り、その予算削減を図ろうとした橋本政権で猛反対した族議員の中心だった。熊本県では5年間でUR予算840億円が使われた。この時、県農政部は以前にも増して、彼の手足の如く使われた。町村長には「松岡さんの方へあいさつに行ってもらえませんか」と頼み、松岡には逆らわないように諭すのだ。出向かなかった一の宮町の畜産再編対策事業費2600万円の決定通知が一時ストップした。
 まだある。松岡は地元阿蘇町出身。鳥取大学農学部を卒業後、69年卒業後農水省に入省した。キャリアとしては傍流である林野畑を歩き、林野庁広報官を最後に、90年総選挙に出馬し、当選する。農政に加えて林野でも、強面で顔を利かせているのだ。林野事業は政治家、官僚にとってこの上ない利権の巣窟といっていい。税金横領システムが完璧に整っている。東京新聞取材班の「破綻国家の内幕」(角川文庫)に詳しい。
 予想した通り入閣するや否や、早速とほころびが出てきた。パーテー券200万円の記載漏れだ。いかがわしい企業家セミナーで、8000人から30億円を出資法違反で集めた企業からのもの。迂闊な記載漏れで終わらせてはならない。
 それではなぜ、安倍晋三がこんな危険な人事を行ったのか、だ。河口湖の別荘でこの程度のことも想像できなかったのか。当選6回、前々回選挙では比例での返り咲きであった。当然必死の猟官運動を行ったことは想像に難くない。派閥の親分・伊吹文明にも食ってかかっている。大顰蹙のあからさまな猟官運動を誰もが目撃している。
 このなぜ、を解くことが安倍内閣の本質に迫ることではないか、と思っている。クリーンイメージとは程遠く、意外と自身にもスキャンダルがあり、松岡の恫喝に弱かったのか。松岡を野に放つと何をされるか、わからない恐怖があったのか。自由貿易協定(FTA)交渉は日本の貿易を左右する大きな問題であり、ウルグアイラウンド以上に日本農業をどうするかが課題となっている。また、UR予算同様のカラクリで乗り切ることは許されるはずもない。安倍は松岡に何を期待しているのだろうか。
 そう考えてくると、安倍政権ではほとんど期待するものがない。教育基本法、沖縄基地移転などなど、ほとんど手を付けてほしくないように思えてくる。

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