2025刑務所改革の年

 1月18日放映の報道特集は、少年犯罪の更生を取りあげた。今でもその凄惨さゆえ記憶に残る女子高生コンクリート詰め殺人事件(1988年)の加害者のひとりに焦点をあて、その義兄が語っている。10年の刑を受けて出所し、受刑中にパソコンのスキルを学びIT関連の仕事をしていたが、彼の前科が周囲に知られて人間関係が行き詰まり、その職場を退職した。その後は、暴力団の構成員になった。04年一般男性に対してコンクリ事件をチラつかせ、同様の監禁致傷事件を起こした。その服役中に義兄が訪ねた。何か食べたいものでもと刑務官にお金を預けたのだが、そういった途端「何を兄貴づらして」と激怒した。以前からあった拘禁による妄想反応である。刑務所では適切な治療を受けていなかった。更生とはほど遠い、というのが義兄の実感。22年7月、自宅トイレで事故死した。薬で朦朧として、自死に近い。51歳であった。

 さて、25年6月から改正刑法が施行される。2001年に名古屋刑務所で起きた刑務官による受刑者暴行死事件がきっかけ。受刑者の社会復帰と再発防止を掲げて「拘禁刑」を創設した。受刑者に対して刑務作業を課す「懲役刑」と、作業義務はないが収監される「禁錮刑」のふたつだったが、受刑者の社会復帰と再発防止を明確に掲げて「拘禁刑」とした。司法界では「コペルニクス的転回」と呼ばれている。これまでは「懲らしめ」「懲罰」などの側面が強かったが、出所後を見据えた立ち直りの「支援」へと切り替えた。

東京新聞のいいところは、すぐにその先進地であるスエーデンに記者を派遣していること。木原育子記者が世界2月号にレポートしている。「フェリンゴ女子刑務所へ ようこそ」。

 「刑務所を社会の中で異質な空間にしないよう心掛けている。刑務所と社会は地続きだと捉えることが重要だ。物理的にも精神的にも」。大型で収容管理を目的とした日本の刑務所と違って、フェリンゴ女子刑務所は定員80人とこじんまりし、受刑者をクライエントと呼ぶ。在宅医療に関わった時に、患者と呼ばずにクライエントと呼んだことを思い起こした。管理の対象ではなく、支援の対象だということ。そしてそのクライエントが刑務所を案内してくれた。独房というより寮のような個室、図書室やジムもある共用施設、信頼委員を選任しての自治など日本とは大違い。刑務官と受刑者という絶対的なヒエラルキーではなく、社会復帰のためのカウンセリングルームや、トラウマ治療や専門的な支援を受けられる心理療法室もある。受刑者の可能性を信じ、粘り強く対話を続けていこうという意思が随所に見られる。

 長い間に染み付いた行刑密行主義や、負の烙印を押し続けてきた社会の偏見もすぐに改善されるわけではない。日本の再犯率は5割を超えるが、スエーデンでも再犯率は3割未満で道遠しというレベルだ。

 少年犯罪者の孤独、孤立を思う時、「無知の涙」を遺した永山則夫の「おふくろは、俺を3回、捨てた」という絶望が思い浮かぶ。根底にある貧困と孤絶だが、これを救い上げる更生システムを創りあげないと惨劇は繰り返される。それは平穏に生きているわれわれの責任でもある。

  • B!