金沢の観光資源の掘り起こし、新しく創出する意欲は想像以上だ。金沢駅の鼓門をはじめ、ひがし茶屋街の復活、21世紀美術館など枚挙にいとまがない。お盆休みに遅まきながら、22年7月にオープンした石川県立図書館を訪ねた。帰省していた中1の孫娘も一緒なので、こちらの張り切りようが恥ずかしいばかり。
しかし、聞きしにまさるとはこのこと。旧金沢大学工学部跡地の利用だが、知的な伸びやかさがいい。パンフでは「知の殿堂—知の玉手箱 めぐる・めくる・めくるめく図書館」「公園のような、目的がなくても何気なく遊びに来られる図書館」というが、まさにその通り。総工費は150億円が惜しげもなく投じられている。設計は仙田満の環境デザイン研究所。設立は1968年だから、ちょうど東大安田講堂事件の頃、仙田の先駆者たるところは「時代はデザインを求めている」と感じていたこと。アートからデザインへ。従来建築の殻を破り、街づくりのスケールで演出し、「自ら問いを立て、自分なりに答えを導き出せる」建築デザイナーを目指した。その可能性など、認識を改めなければならない。
ベンガラと群青を基調にしたグレートホールと呼ばれる吹抜大空間が迎え入れてくれ、壮大な円形状の開架式書棚が好きな本を手に取れよ、と勧めてくれる。傍にさりげなく置かれた椅子は民藝・柳宗理のバタフライ・スツールだ。実にきめ細かく配慮され、居心地がいい。陶磁器の本のコーナーでふと目をやると、第十代大桶長左衛門の寄付とさりげなく記されている。凄いね、と声を掛けてきた孫娘に別々に巡ろうと、1時間後に会うことにした。
お節介爺さんにはもう一つの目論見があった。図書館の向かいには、これも新築なった金沢美術工芸大学が建っている。公立で学生数650人程度の小規模さ、加えて入学金、授業料が安い。卒業生に私が好きな画家・鴨居玲がいるだけで、質においても劣らないと思っている。そのうえに県立図書館の仕事が優先的に美大生に割り当てられ、美術工芸の実践にもなる。いわば願ってもない環境なのだ。孫娘は美術部に属している。将来の選択肢にぜひ加えてほしいという爺さんの深慮遠謀である。受付の守衛に、この娘がこの美大を目指しているといったら、大学の資料一式を入れた封筒を丁寧に渡してくれた。それを見届けるにはあと5年生きなければならない。
その後鈴木大拙館を見て、この大拙館を設計した谷口吉郎・谷口吉生記念金沢建築館を回った。石川県、金沢市が投ずる施設維持予算は他の都市の比ではない。都市間競争の勝者になることは間違いない。