法人の開業を間近かにひかえ、待ったなしの決断が迫られることがある。運転資金をどう工面するかなどは、その際たるものといっていい。カネがない中でどうするかということになれば、県の制度融資「創業・ベンチャー支援資金」が手っ取り早いと見定めていた。設備資金・運転資金など含めて3,000万円が限度となっていて、金利は1.65%に信用保証協会の保証料0.6%が加わり、2.25%となる。取引銀行が融資手続きを代行してくれる。昨年末に銀行2行に依頼していたが、こちらの控えめな性格もあり、後回しになるのはやむを得ないと思っていた。案の定である。素人判断で3,000万円は確定しているとばかり思っていたが、信用保証協会の審査で、運転資金が中心だから、1,500万円が限度という報告が入った。開業間際となる3月4日である。窓口としていた支店次長ではなく、35歳という支店長代理があわててやってきた。信用保証協会の見立ても、精査というより、もっと自己資金を用意しろとかで、もう寄り掛かってほしくないというあからさまなもの。県経営支援課も、信用保証協会の判断に口ははさめないという。それではどうするのかと、若い支店長代理に迫ってみた。一度戻って返ってきた回答が、これを超えるものは2.675%の金利で、医師に掛けてある保険に質権を設定するものであった。加えて、この制度融資は当行で、超えるものは競合している他行に頼まれてもいいです、といい添えた。
「腰が引けたね。積極的には取引したくないということだな」。こちらも方策を考えないわけにいかないから、週明けの8日に判断すると、切り口上でいい放った。
日銀が発表した2月の貸出・資金吸収動向によると、企業の資金需要の低迷を受けて、銀行の貸し出しの減少に歯止めがかからず、金利も過去最低水準まで落ち込んでいる。預金が潤沢に集っても貸出先がないために、国債での運用に頼らざるを得ない。銀行経営も想像以上に厳しい。にも拘わらず、こういう対応なのである。この銀行にとっては、取るに足らない小さな融資案件なのかもしれないが、細部にこそ神は宿るという。まだ、床の間を背に座っている銀行様で、企業の生殺与奪のカギを握っている感覚から抜け切っていない。審査能力もなく、ただただ担保、連帯保証のリスク回避にしがみつく行動様式である。そして何よりも、銀行特有のヒエラルキー型組織にも大きな問題がひそんでいるように思う。時代感覚がなく、目利きでもない、単に年功序列の、減点主義だけが幅を利かせている組織がどれほど若者を蝕んでいるかである。
地方分権は行政だけの問題ではない。それを支える市民意識はもちろんだが、経済的にも自立した産業構造があって初めて成り立つものである。その大きな役割を担うのが地域金融である。そのレベルが、地方のレベルを決めるといっても過言ではない。カネ回りという血液を、地域で循環し、成果を生み出し、雇用につなげなくてはならない。公務員や、公共事業に依拠した人々だけでは、自立した地域にはならない。
苦い思い出がある。結婚もと思っていた彼女から、就職先に銀行というのも考えてね、といわれて、愕然としたことがある。40年前のことだが、最も安定し、将来の生活を保障するものであったことは間違いない。
さて、その結論だが、その銀行にはお引取り願った。「ここまで話を詰めてきたのに、ゼロとは何か」と凄まれたが、最初から膝を屈して、お付き合いを願うということはできない。いざとなれば、すべてを投げ打ってもという気概のある従業員というより、経営のパートナーといっていい連中がいる。収支だけのビジネスモデルはもちろんだが、経営と働く人との、新しい関係をも模索する経営形態をも視野に入れている。
大見得を切りすぎる老人の悪い癖が出てしまったようでもあるが、すべて受け入れていくしかあるまい。
地域金融
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