危ない金融資産

年末に亡妻名義の定額郵便貯金の満期通知が届いた。言わずもがなだが、郵便局は貯金、銀行は預金である。お預り金額12万円、税引き後利子額33、300円で、合計153、300円。まるで天国からのプレゼントだから、親孝行でもしろ、という意にとった。さて、それからである。近くの特定郵便局に出向くと、女性職員が相続貯金名義書換請求書なるものを手渡し、まるで幼児に諭すように説明する。代表相続人以外の許可が必要です。3人の息子さんの本人署名の同意書、印鑑、印鑑証明書を用意して下さい。しかも切り口上でいわれると、温厚な性格だがムカッときた。ちょっと大きな声で「これだけの少額貯金にそれだけの事務手続きが必要なのか」。局長が飛んできて、応接へどうぞとなった。怖い客と見られたらしい。再度どうしてもダメか,と念を押す。特定郵便局長曰く「私の首が飛びます」。ますます感情が激してきて、次なる反論に。
 そもそも郵便貯金は、庶民が爪に火を灯すようにして生活を切り詰めたもの。マネーロンダリングなどとは縁遠く、相続といわれる程の金額ではないではないか。これは過剰にして自己防衛的な形式主義で、貯金者利益に反するのではないか。こうしたケースは高齢者が多いのだから、これだけの煩瑣な手続きはどれだけ負担になるか、想像力を働かせてほしい。相続に不正が懸念されるのであれば、次善の措置として、誓約書を提出するなど郵便局が免責される事項を織り込んだらどうだ。民営化を推進するなら、こうした不備をすぐに具申しなさい。クロネコヤマトに対抗して、ゆうパックを拡大するより余程大事なこと。
 少し溜飲をさげたが、これで解決するわけではない。早速、大学生の三男に印鑑を買って送る事にしたが、まさか百円のものにするわけにいかず、1万円を使う破目になってしまった。
 いまひとつ、8年前の忌々しい事を思い出した。生命保険や簡易保険の受け取りについてだ。保険会社はどうしても医師の自筆による死亡診断書を提出してほしいという。大切な肉親を失い、気落ちしたものに、どうして煩瑣な手続きを求めるのか。まして医師は治療に専念すべきなのに、保険の受け取りのために、何枚も同じ書類を書かせるのは気が引ける。またそのためにどれだけ時間がかかることか。コピーでどれほどの不備がある。保険金をこれだけの理由で支払えないというなら、訴訟に打って出る、それでもいいか。という強面談判でなんとかなったが、これにしても高齢者であれば、病院にお願いして待つしかないのである。
 こんなこともあり、93歳の父親と90歳の母親に「あなた方の預貯金は。この愚息が管理するから」といい含め、何とか整理し、万一に備えることができた。そろそろわが両親もさりながら、その愚息も死に支度にはいってもおかしくない。
 わが国の金融資産は140兆円ともいわれるが、恐らくその何割かはこうした理由で死蔵されたものになっているに相違ない。明治、大正、昭和の激動を潜り抜け、一切の贅沢をせず、ひたすらに働き、そうして蓄えた預貯金が、合法を装いながら、自分の金ではなくなっていく。加えて、振り込め詐欺、年金狙いの次々販売、「危ないキャッシュカード」と犯罪の標的にさらされる。高齢者の金融資産をどう守っていくのか。法制度の解決までといったら、命の方が間に合わない。できる限り自衛の措置を取っておきたいものだ。
 さて、13日、NHK番組制作局の村井暁チーフプロデューサーの涙ながらの告発には、熱くなった。制作費流用では行動を起こさなかったが、今回は年間受信料25,520円の振込契約を解除するつもりだ。

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