イムニタス・マスク。

「さあさあ、手にとってごろうじろう。いびき、口内炎、睡眠時無呼吸症候群でお悩みの方に、これほどの朗報はないよ。特許取り立ての新製品だ。寝る前に、ひょいとマスクを掛けるだけ。違和感もなく、眠りを妨げることもない。朝はすっきりだ。そして、この値段。さあ、持っていけ!泥棒!」。こんな口上をねじり鉢巻姿で、年末年始に唸っているかもしれない。
 イムニタス・マスク。すぐ反応する人は、ほんもののインテリだ。免疫(immunity)からの造語である。覚えにくくて、最初のつまづきになる、と危惧する声もある。しかし、このマスク。単にいびきを抑えるだけでなく、潜在的な免疫力も引き出してくれるかもしれない。そんな期待を込めた思い入れがあるのだ。
 60歳からの起業である。高校同期の親友が特許を出願したのが昨年10月。公開なったのがこの3月で、その間商品化に向けて試行錯誤を重ねていた。ようやく目途がついた7月、市場に出すので協力しろ、と親友から話があった。マーケティング、販売広告戦略担当である。こんな時は、後先考えずに乗ることにしている。ソニーでいえば井深と盛田、ホンダでいえば本田と藤沢という取り合わせと思っている。
 さて、この男のことも話しておこう。生来は無頼といっていい。大阪大学で、機械工学と化学をやってきた。といって真面目な向学心、向上心からではない。酒、麻雀、女にうつつを抜かし、卒業が危ぶまれ、苦し紛れに奨学金を得て、転科をしたに過ぎない。化学会社に席を置き、唯一の業績は画期的な抗がん剤の製造法を編み出して、これが国際特許となり、現在でも同社の高収益に貢献している。高校時代でも数学的なひらめきを得意とし、それだけで乗り切ってきた。そうした自負が時にアンビバレンスな行動に駆り立てることもある。40半ばで、塾講師に転じようとしたこともある。そんな性格から、曲折をようやく乗り越えてきたといっていい。現在は取締役を退任し、顧問となっている。膀胱癌を50歳過ぎに患い、その後遺症にも悩んでいる。しかし、この新製品はそこから生まれてきたのだ。
 イムニタス・マスクの開発物語である。この男、小さい時からいつも、ぽかんと口を開けていた。小中とトップの成績らしかったが、その風貌から不思議がられたらしい。生活が乱れると、よく口内炎に悩まされた。特に大病後はそうで、体力の低下もあり、便秘・腸閉塞が加わった。口呼吸がよくないということは薄々わかっていた。ここ数年、ケンコーコムでいろいろなグッズ情報を求め、試してみたが、どうもしっくりこない。装着に違和感があったり、抑制効果そのものにも、また経済性にも。どうにも我慢ができなかった。そんな時である。ソファーに寝そべっていた時に、口に指をあててみると呼吸が楽になることに気が付いた。口の周りにある口輪筋を刺激すれば、軟口蓋、口蓋垂、舌根などが緊張し、気道が少しでも開き、鼻呼吸になるのではないかと推論した。そして、ひらめいたのである。プラスチックのマスクにツボを押すような突起をつけたらどうか。百円ショップで素材を探し、試作が始まった。自分をモニターとして何度もやり直し、ようやくにたどり着いた。試着し出してから半年、口内炎は出なくなった。どうも腹式呼吸の割合も増加して、便秘からも腸閉塞からも解放されたという。
 これを受けての販売担当はいかに。商学部卒の正念場でもある。錆びついてしまったマインドをいかに取り戻すか。単一商品での少量販売、どうきっかけを創り出していくか。難問ながら、楽しみでもある。取り敢えず、300個だけ無料モニターを展開してみることにした。いびき、睡眠時無呼吸症候群で悩んでいる方、また友人知人でそんな方がいらっしゃったら、遠慮せずに申し込んでほしい。モニター商品は9月末にできるので送付したい。
 この際である。モニターだけでなく、われと思わん、助っ人は名乗り出て欲しい。多少よこしまな下心があってもいい。中年ボケを手玉にとってやろうというのでもかまわない。待っている。

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